......てか、私の話聞いてた?
もう望みはないんだってb___
なぜか、今度は、少し悲しい表情になった。
少し慌てて言ったが、表情はそのまま。
どっちかが嘘なんだ、そう思った。
そうだ、心残りをなくしたいんだ。
彼と一緒に、最後の春に、桜を。
今は退院して、海外で暮らしてるらしい。
彼の退院が決まったとき、待っていると言ってくれた。
でも、お別れも言えなかった。
それが悔しくて、仕方なかった。
これまでで一番の悔いなんだ。
また会ったときは、ごめんねとありがとうとおめでとうを言うんだって、心に決めていた。
もうそれもできなくなったんだ。
海外だからと、連絡を取らせてもくれないし、番号を知ってるわけでもない。
でも、死神君に呼んでもらえれば、言える。
春なら、約束が叶えられる。
口に出そうとした瞬間、ひとつの予想が横切った。
相手は、果たして覚えてくれているのだろうか。
6年経ってるんだ。
覚えてるか覚えてないか分からないことに、人生最期の望みを無駄遣いしたくない。
賭けられるほどの度胸は持ってない。
それに。
もし覚えてなかったら、これまでの私の思いはなんだったのか。
それこそ、悔いだらけの、死神君の言う綺麗な魂にはならないんじゃないのだろうか。
でも、寂しい。
一人は、やっぱり寂しいのだ。
さっき出逢ったばかりだけど、死神君は、ぶっちゃけを言える唯一の存在なのかもしれない。
勘なのだが。
死ぬまで、こういう相手は、必要なんじゃないか。
もし予想外なら、ちょっと驚かせたいし。
予想通り、戸惑った表情だ。
迷惑そうな顔で、
しぶしぶ了承したようだ。
でも、なぜか、どこか少しほっとしたようだった。
死神君は、手を差し出した。
言ってる意味がよく分からなかった。
契約って、何?と思いながらも、言われた通りにすると、死神君の手のひらが光りだし、辺りを包み込むほど眩しかった。
思い返せば、恥ずかしいことを言ったのだ。
なのに、相手は変わらず接する。
契約までした。
もしかして、気づかないの.....?
......とにかく、毎晩死神君が来てくれることになったらしい。
“毎晩”の意味は分からないけど。
嬉しかった。
もしかすると、死神君はきっと、綺麗な魂をもらうためじゃなくて、私を想ってるからなのかな、と都合よく思ったりした。
そういった死神君は、消えた。
ただ、明日の夜が、本当に来てくれるのかと思うと、楽しみだった。
誰もいないはずの闇夜に向かって、返事をした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!