第3話

#02 一つだけ望みを
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2022/01/10 15:53
結月
結月
望みを、叶える......?
死神君
死神君
うん、どんなことでもいい。一つだけ、死ぬまでに、と望むことを叶えてあげる。
結月
結月
どんなことでも?
死神君
死神君
......うん。綺麗な魂を得るためには。
結月
結月
............
......てか、私の話聞いてた?
もう望みはないんだってb___
結月
結月
___いや、叶えてほしいことが......。
死神君
死神君
あるんだね。
なぜか、今度は、少し悲しい表情になった。
結月
結月
......叶えることが、そんなに嫌?
死神君
死神君
あ......。
そういうことじゃない。叶えたい気持ちはある。
少し慌てて言ったが、表情はそのまま。
結月
結月
嘘つき。
死神君
死神君
ほんとだってば。
結月
結月
......綺麗な魂をもらうため?
死神君
死神君
......そうだよ。
どっちかが嘘なんだ、そう思った。
死神君
死神君
......叶えてほしいことが、あるんだよね。
結月
結月
..........
そうだ、心残りをなくしたいんだ。
彼と一緒に、最後の春に、桜を。
今は退院して、海外で暮らしてるらしい。
彼の退院が決まったとき、待っていると言ってくれた。
でも、お別れも言えなかった。
それが悔しくて、仕方なかった。
これまでで一番の悔いなんだ。
また会ったときは、ごめんねとありがとうとおめでとうを言うんだって、心に決めていた。
もうそれもできなくなったんだ。
海外だからと、連絡を取らせてもくれないし、番号を知ってるわけでもない。
でも、死神君に呼んでもらえれば、言える。
春なら、約束が叶えられる。
結月
結月
じゃあ、___
口に出そうとした瞬間、ひとつの予想が横切った。
相手は、果たして覚えてくれているのだろうか。
6年経ってるんだ。
覚えてるか覚えてないか分からないことに、人生最期の望みを無駄遣いしたくない。
賭けられるほどの度胸は持ってない。
それに。
もし覚えてなかったら、これまでの私の思いはなんだったのか。
それこそ、悔いだらけの、死神君の言う綺麗な魂にはならないんじゃないのだろうか。
でも、寂しい。
一人は、やっぱり寂しいのだ。
さっき出逢ったばかりだけど、死神君は、ぶっちゃけを言える唯一の存在なのかもしれない。
勘なのだが。
死ぬまで、こういう相手は、必要なんじゃないか。
もし予想外なら、ちょっと驚かせたいし。
結月
結月
じゃあ、___死ぬまで、いつもそばに居て。
死神君
死神君
......?
予想通り、戸惑った表情だ。
迷惑そうな顔で、
死神君
死神君
いつも、って、毎日?
結月
結月
望みを聞いてくれるんでしょ?
結月
結月
ただ、これまでより寂しい思いをしたくないだけなの。
死神君
死神君
......うん、望みだもんね。
しぶしぶ了承したようだ。
でも、なぜか、どこか少しほっとしたようだった。
死神君
死神君
分かった。ただ、
死神君
死神君
毎晩、でもいい?
結月
結月
......う、うん。
死神君
死神君
分かった。___
死神君は、手を差し出した。
死神君
死神君
契約するから、手をのせて。
結月
結月
う、うん。
言ってる意味がよく分からなかった。
契約って、何?と思いながらも、言われた通りにすると、死神君の手のひらが光りだし、辺りを包み込むほど眩しかった。
死神君
死神君
__できたよ。
結月
結月
う、うん......。
思い返せば、恥ずかしいことを言ったのだ。
なのに、相手は変わらず接する。
契約までした。
もしかして、気づかないの.....?
......とにかく、毎晩死神君が来てくれることになったらしい。
“毎晩”の意味は分からないけど。
嬉しかった。
もしかすると、死神君はきっと、綺麗な魂をもらうためじゃなくて、私を想ってるからなのかな、と都合よく思ったりした。
死神君
死神君
じゃあ、今日はこのくらいで。おやすみ。
そういった死神君は、消えた。
ただ、明日の夜が、本当に来てくれるのかと思うと、楽しみだった。
結月
結月
____おやすみ。
誰もいないはずの闇夜に向かって、返事をした。

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