第11話

寝起きの朝と純白のアネモネ
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2019/12/09 13:28
雪 賜瘰(せつ しるい)
紫水さーん!紫水さん!
おはようございます!起きてください!
ダンダンダンダンダン!
扉が揺れるほど、強く叩かれる。
桂 紫水(けい しすい)
やめてくださいっ!壊れる!壊れるから!
せっかく気持ちよく寝ていたというのに・・・。
部屋に響く不穏な音に布団からはね起きて、叫ぶ。
雪 賜瘰(せつ しるい)
おはようございます。ものすごく晴天ですよ。
桂 紫水(けい しすい)
あなたが私の安眠を妨げなければ、私の心も晴天でしたよ。
せっかく素敵な夢を見ていた気がするのに・・・
扉を開けて賜瘰と対面する。思いため息をついた。
初めての出勤に大遅刻してから、皇帝から毎回の迎えに彼付きの宦官である賜瘰しるいが迎えとして、送られてくる。それは例え、紫水が国最大級の広さを誇る後宮のどこにいてもいつの間にか、後ろにひかえている。
あんたは幽鬼か、と毎回ツッコミたくなる紫水であった。
雪 賜瘰(せつ しるい)
いえ。てっきりもうお召かえも終わっていると思ったのですが・・・。側仕えはどうしました?
桂 紫水(けい しすい)
側仕え、とは昨日の朝に私に水をぶっ掛けて、そのまま一度も来ていない職務怠慢しょくむたいまん女のことですか?
雪 賜瘰(せつ しるい)
・・・水・・・?ぶっかけ・・・?
賜瘰は目を丸くして、キョトンとする。
これがまた、賜瘰はかなりの美形で首を傾げる仕草も様になっているのが、寝起きの紫水にはカチンとくるのだ。
桂 紫水(けい しすい)
出てってくださいね。着替えますから。
淡々と言って、音をならして扉を閉めた。

ーーー
桂 紫水(けい しすい)
あぁ。もっと寝たかった。
雪 賜瘰(せつ しるい)
まだ言ってるんですか。いい加減諦めてください。もう、あなたの一日は始まってます。
二人は皇帝の部屋へと続く、後宮の中を歩いていた。そこは左右が開けており、朝の光を浴びて輝く植物たちを見ることが出来る。
それを見れば、全ての人々は爽やかな気持ちになるだろう。が、紫水にとっては眩しい光が眠気をさらに引き立てるだけだった。
桂 紫水(けい しすい)
元々、私が後宮に来る前に毒味役はいただろうに。なんで、私がこんなに苦労して早起きしなきゃいけないんだ・・・。
雪 賜瘰(せつ しるい)
くどいですよ。
溜瘰はため息をついた。
雪 賜瘰(せつ しるい)
もう、主上(皇帝のこと)にとってあなたが『来ない』というのは一大事なんですよ。
桂 紫水(けい しすい)
なんで
雪 賜瘰(せつ しるい)
知りませんよ。わたしは主上じゃないので。
ふーん、と適当に相槌をうって、紫水は外の庭園に目を向けた。
青々と茂った柳の木が風に揺れている。
それを見ていると、木の下に太陽の光を受けて何かが光った。
桂 紫水(けい しすい)
・・・?
雪 賜瘰(せつ しるい)
紫水さん?
急に立ち止まった紫水に賜瘰が声をかけた。
桂 紫水(けい しすい)
・・・うん。ちょっと・・・
そう呟いて、紫水は庭園に降りていった。
何かが光った方に歩いていくと、それはあった。
桂 紫水(けい しすい)
わぁ・・・
思わず感嘆の声を漏らす。
そこにあったのは金色の簪(かんざし)だった。太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。端には丸い金細工と真っ白な牡丹一華アネモネがついており、決して色合いは派手でないが人の目を引く簪だ。
雪 賜瘰(せつ しるい)
それは?
いつの間にか後ろに来ていた賜瘰が紫水の手を見た。
桂 紫水(けい しすい)
さぁ?ここに落ちてました。
雪 賜瘰(せつ しるい)
誰か妃嬪ひひんの落とし物ですかね。これから皇帝の元に行きますから、持ち主を探していただくようお願いしてみましょう。
紫水は頷いて、懐から手巾を取り出して簪を包んだ。
そして、賜瘰の後に続いて皇帝の部屋へと足を進めたのだった。

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