靄がかかったように混乱している頭をどうにか別のことで埋めようとしても、簡単には出て行ってくれないあの人の顔が嫌になる。
待ち合わせ場所へ車で迎えば、随分可愛らしい格好で立ち尽くしてるチェウォンちゃんとそのマネージャーさん。
うわっ...私服のセンス良すぎじゃん、超可愛い
黒のミニスカに赤のカーディガンに...チェックのベレー帽?うわ、自分に似合うの分かってんな...
マネージャーさんも可愛いけどやっぱりアイドルは一際目立つんだな...私も一応アイドルだけど
窓を半分開けてチェウォンちゃんの名前を呼ぶと、かなり驚いたような顔でまじまじと私を見てる。
隣のマネージャーさんはそんな彼女を見て苦笑いを浮かべながら私にお辞儀をしてくれて。
未だに口を手で押さえているチェウォンちゃんの目の前に行けばやっと意識が戻ってきたのか、ハッとした表情で2,3回お辞儀を繰り返してくれて。
そんな彼女の初々しい反応にいちいち可愛いと思ってしまうのは、ここ最近年上しか相手してなかったから
決してこの子に逃げようとしてる訳じゃない。決して。
マネージャーさんと別れて、チェウォンちゃんの荷物を預かって、彼女を助手席へ座らせて。
サングラスをしているからか、周囲には私だと気付かれてないらしく、スムーズに車を走らせることが出来た。
...珍しく、会話が長続きしない。
そこで会話が途切れてしまえば隣の彼女も気まずい雰囲気を出しているし、私も気まずくなってきて。
その場しのぎにラジオをかければ大音量で流れるEDM。
ついさっきまであの人の顔を追い出すために馬鹿みたいな音量で聞いてたのをすっかり忘れてた...笑
チェウォンちゃんもびっくりしたのか、思いっきり肩を上げて顔を顰めてしまった
真剣に悩んでいるのか、視線を前に移して手で顎を支えながら唸ってる。
その横顔も可愛らしくて、高い訳でもない鼻がなんだか幼さを引き立たせているようで微笑ましい。
...年下もいいかもな、なんてね
今まで、年下を相手にしたことは一度もない。
ウンビオンニも、ジスオンニも。そこまで年の差がある訳じゃないけど、二人とも年上。
ジスオンニに関しては年上ってほど精神年齢高くないけど、そういう事に関しては驚く程に積極的だから自然と年上感出てくる。そういう時だけ。
信号が赤になる度、ここはどうでしょう!とかやっぱりあそこどうですか?!なんて元気そうに喋ってるチェウォンちゃんの相手をしていると
最初は少しずつ震えていたスマホがついに着信に切り替わった。
チラ見程度に液晶を見れば相手は勿論今朝の人。
執念が凄いな...
隣の子に一言ことわってから、路傍に停車しその着信をとる。
通話ボタンに触れた途端に奥から聞こえる甘ったるい声に寒気を覚えて、急いで運転席を降りて。
信じらんない信じらんない信じらんない
気持ち悪い。何?なんで?どうしてそうなったの?ていうかなんで...その、自慰行為の最中に電話なの?
こっち平和な時間過ごしてるのを邪魔するかのようにそんな声聞かせないでよ...
無理、嫌だ、なんで真昼間からそんなことしてんの?
なんで人の家で勝手にそんなこと...
彼女が、私の部屋のベッドの上で。そういうことをしているという事実が頭に入った途端どこからかやってきた嘔吐感。
ぐっと堪えたものの、口の中には気持ち悪い特有の臭いが籠ってたまらずまた吐きそうになる。
...私、いつの間にこんなんになってたんだろ
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。