第4話

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2021/10/09 10:03




珍しくオンニ感のないウンビオンニを助手席へ乗せて、思い出のレストランへと車を走らせる。




なんにも変わってないね...と随分感慨深そうに車内を眺める彼女は、やはりいつ見ても美しさを感じさせる。




ウンビ
ウンビ
...あれから、ここに誰か乗せたりした?
あなた
オンニが最初で最後です。そもそも私が車持ってること知らない人の方が多いので
ウンビ
ウンビ
そうなの?撮影とかこれで行ってるんじゃ?
あなた
そのはずなんですけどね...
ウンビ
ウンビ
でも...ちょっと嬉しいかも
あなた
...それは良かったです笑




こんな短い会話でも、約四年ぶりの私達にとって会えなかった四年間を忘れるほどの時間だった。




...この人は、私が付き合った最初の人。




ダンススクールで出会って、お互い切磋琢磨して実力を磨いてきた仲だった。




アドバイスをしあって、お互い言いたいことを言い合える仲で、トレーナーの先生にも一目置かれていたペアだった。




ウンビオンニが中学二年の時に出会って、約一年色々な大会に挑戦してオンニは高校生になって。




2013年、オンニが高校卒業と同時にPLAYに所属したタイミングでオンニから告白されて、付き合い初めた。




それから約1年、私達は多分幸せにやれてたし、オンニもデビューすることが出来てお互いが良くも悪くも一歩ずつ進んでいた時。




私の...元家族によってそんな幸せが打ち砕かれた。




あの時のオンニの気持ちを考えると今でも気が重くなるし、申し訳なくなる。




...私にとっては、少し心救われる出来事でもあったけど。




今でこそ隣に座っている人は少し幸せそうな顔をしているけど、そんな彼女に何を言われるのか。




あの人は未だに私を探しているらしい。何度もあの名前の書かれたチラシを街中で見かける。




...あんなことをした人が、母親ヅラをして今もどこかで金の無心してるなんて。




血反吐がでるほどに気色悪い話だよ、ほんと。




そんなことを考えていると、既にあの懐かしいレストランが見えてくる。




駐車場も、外壁も看板も何も変わらず、ただ補修工事の跡がまだ目立つかなくらい。




車を停める前、彼女へひとつの帽子を手渡すと、とても大切そうに抱えるその姿に懐かしさを感じた。




車を停めて、エンジンを切ってシートベルトを外してあげれば11人の前とは全くの別人に成り代わって車を飛び出す。




そんなオンニの後を追いかけて、二人で中に入って。




案内されたテーブル席に向き合うように座ってメニューを開く。




ウンビオンニが口を開く前にこれでしょ、と指で指し示すと、さすが私のあなたのニックネームだ...と感動してるらしい笑




あなた
...それで、今日は何のお話を?
ウンビ
ウンビ
だいたい分かるでしょ...?
あなた
分かりません。と言うか、もし私が思ってることなら答えは無理です。
ウンビ
ウンビ
...なんで?もう他に相手がいるの?
あなた
まさか。私はずっと昔からオンニ一筋ですよ
ウンビ
ウンビ
それなら断る理由がないじゃん。
あなた
オンニは...二度目とは言えデビュー直後でしょう?これからもっと忙しくなるのに、それを邪魔するなんてしたくありません
ウンビ
ウンビ
邪魔なんて...私はただ前みたいに一緒にいれたらいいだけなの
あなた
無理ですよ、私達の関係はそもそも極小数の人しか知りませんから
あなた
私もかなり登り詰めましたし、オンニもこれから相当人気が出る。それなのに危険な事をさせたくないです
ウンビ
ウンビ
...じゃあ、しばらく経ったら私の所にちゃんと戻ってきてくれる?
あなた
...えぇ。この話はまたお互い落ち着いたらにしましょう




話を切り上げたタイミングで、丁度よく頼んだ物が届いて二人で久しぶりの味を楽しむ。




よくここで振りの制作とか勉強とか一緒にしたんだっけ...あの時あったオリジナルプリン、もう一回食べたかったな笑




二人でこの離れていた四年間の話をして、お互いよく頑張った。そんなちょっとしみったれるような話もして。




それでもお互いの事を考えてた、なんて言い合って二人で恥ずかしがるのもまた懐かしさを覚える。




ふと腕時計に目を向けると短針は既に11時を指している。




そろそろ帰りましょうかと提案すればそうだね、と少し悲しそうな目をして頷く。




さっきの元気はどこへ置いてきたのか、席を立ったオンニは凄く弱々しく見えて。




控えめに私の腕を取るその姿は初めて出会ったあの頃から一度も目にしたことの無い表情だったと思う。




















あなた
じゃあ、また...落ち着いたら会いましょう
ウンビ
ウンビ
...私、怖いよ
あなた
え...?
ウンビ
ウンビ
また会えなくなりそうで...怖い
あなた
会えなくなるなんて...そんなことはありません
ウンビ
ウンビ
ほんとに?絶対だよ?
あなた
えぇ、絶対。
ウンビ
ウンビ
じゃあ...また。
あなた
はい、また。




ハグ...は出来ないけど、固く彼女の華奢なその手を握って。




私よりも強く握るその手が離れたのは多分五分は経ってからだったと思う。




彼女が宿舎へはいるのを見届けてから、私も車に乗り込む。




...正直な話、あの関係には戻れない。いや、戻るつもりがない。




何年も前...オンニと出会う前から、決めていた人がいるから。遊んでた訳じゃないけど、オンニには戻れない。




少し鼻に残る彼女の残香が私達の関係を、現実を突きつけているような気がして気が重くなった。




私の心の奥底をいつまで隠し切れるか。ずっと隠し続けられるなんて自信は全く持ってない。




...帰ろう。明日も撮影だ。まだまだ忙しいんだから恋愛にかまけてられない




























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