ぐっ、と首に当てられたナイフは、優斗の血で濡れていて、それがさらに恐怖を煽る。
首元に添えられた、冷たさが、俺の命はいずれすぐ無くなることを示しているようで、ふっと目を閉じた。
那央ちゃんは作ちゃんにナイフを投げ渡し、俺を羽交い締めにして動けなくする。
作ちゃんはナイフを持って構えると、「ねえ、はしもっちゃん」と聞く。
遺言、ってやつかな。
少し考えると、俺は一つだけ思いだす。
そうだ。
これ、頼んでおかないと。
何故かその一言で顔を歪めたあと、泣きそうな顔になって言う。
そのあと勢いよく弾みをつけて迫ってきたナイフを見て、俺は静かに目を閉じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!