第2話

本編
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2019/08/17 16:48
トントン
お前いつまでおんねん大先生よォ!

トントンの叫び声――怒号が狭い部屋に響き渡る。
ウツセンセイ
ええやんトンちぃ。
僕ほら、家もう無いやん

鬱先生は10年ものあいだ「アイホート」に取り憑かれ、気味の悪い屋敷に住んでいた。
その為、元々住んでいた家も既に誰かの手に渡ってしまっていたのだ。
ウツセンセイ
ほんで女ももう連絡取れんし。
なんだかんだ泊めてくれんのトン氏だけやねん
トントン
はあ〜。
ホンマに、なんでこんなおっさんと同居せなアカンねん…
ウツセンセイ
今日からお手伝いするから!
だから追い出さないでクレメンスゥゥ

泣き出しそうな鬱先生を無理やり追い出すことも出来ず、
トントンは「はぁ」と溜息をついた。
トントン
しゃーない。
今回だけやからな!次の部屋探せやおうあくしろよ
ウツセンセイ
ありがとうトン氏!!
トントン
で、じゃあ風呂掃除と皿洗いしろよ大先生。
自分で言ったんやからな。
やんなかったらあれな、ゲームアンストな?
ウツセンセイ
ド鬼畜トン氏
鬱先生は言われた通り、風呂掃除と皿洗いをし、寝床につく時間になった。
部屋が狭いため、ベッド一つ、床にブランケットということになる。
トントン
お前、ブランケットだけでもありがたい思えよホンマに……
ウツセンセイ
おん、ありがたいわ。
いやあ持つべきものはトントンやなあ
トントン
大先生……キモチワルイ
しばらくくだらない話をして、鬱先生が落ちてしまったようだ。
トントンも眠気に勝つ気もなく、素直に落ちていった。
ゆさゆさと、誰かがトントンを揺する。
トントン
んん……なにぃ気持ち悪なるやん……
寝ぼけ眼を擦ると、泣き出しそうな鬱先生の顔があった。
メガネをしていないのでボヤけているが、鬱先生の目が腫れているのが分かる。
トントン
…………なんやねん大先生
ウツセンセイ
いや……その、悪夢見てん
トントン
ほう?
ウツセンセイ
ほら僕……10年間アイホートやってたらしいやん?
トントン
アイホートやってたっていうパワーワードで草生えますわ、で?
ウツセンセイ
その……皆のことを、こう完全に取り込んでしまう夢見て…
怖くなってん
鬱先生は震えていた。
弱々しいと思った顔は、いつもよりひ弱に見えた。
トントン
で、俺にどうしろと?
ウツセンセイ
その……一緒に寝よ
トントン
は?
トントンは耳を疑った。
だがそれと同時に、しょうがないとも思った。
トントン
ああ〜しゃーない。
分かりましたぁ待っとってくださいぃー
トントンは「なんでこうなる」と思いつつもタンスからガムテープを取り出し、
ベッドを2分割した。
トントン
おら、この線超えたら殺すかんな。
俺は壁側もらうで
ウツセンセイ
え……ええの?
トントン
だからテープで分けてんおうあくしろよ
ウツセンセイ
はっはひぃ
背中合わせで寝転ぶ。
お互いの体温が心地よかった。
ウツセンセイ
ねぇトントン
トントン
なんや大先生
ウツセンセイ
ありがとう、助けに来てくれて
トントン
…………それはみんなに言えや
ウツセンセイ
うん。言うつもり
ウツセンセイ
けど、今回のことだけやなくて、
いつもありがとうって思ってん
トントン
なんやねんホンマ。いきなりキモイっすわ
ころ、と、鬱先生がトントンの背中を向く。
ウツセンセイ
無能な僕をフォローしてくれて、ありがとう
トントン
俺だけやないからな。つーか、大変やねんホンマに!
もうちょいスキル高めてくれませんかねぇ
ウツセンセイ
ふふ、頑張る。
……グルちゃんにも、皆にも、トントンにも、感謝…しとるで
トントン
こういう時に言うとかないわ……
返答がない。
眠ったのかもしれない。
首だけ持ち上げて鬱先生を見てみると、安らかに寝息を立てていた。
トントン
ホンマにもう……なんやねんマジで
トントンは持ち上げた首をぽふっと落とし、また「はあ」と溜息をついた。
トントン
ありえんわこの状況……
まあペ神じゃないから良いものの、なあ……
静かな部屋に、鬱先生とトントンの息遣いが響く。
トントンも、覚めかけた意識が少しずつ落ちていくのを感じていた。
トントン
まあ……たまにはええかもな。
水入らずってことで……
今度宿泊会でもしようかな、なんて思う。


























トントン
おやすみ、鬱。
トントンは一言呟くと、意識を完全に落としていった。

























































鬱先生の目が開き、その藍色の瞳に薄く緑がかっていることに気付かずに――
終わり

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