トントンの叫び声――怒号が狭い部屋に響き渡る。
鬱先生は10年ものあいだ「アイホート」に取り憑かれ、気味の悪い屋敷に住んでいた。
その為、元々住んでいた家も既に誰かの手に渡ってしまっていたのだ。
泣き出しそうな鬱先生を無理やり追い出すことも出来ず、
トントンは「はぁ」と溜息をついた。
鬱先生は言われた通り、風呂掃除と皿洗いをし、寝床につく時間になった。
部屋が狭いため、ベッド一つ、床にブランケットということになる。
しばらくくだらない話をして、鬱先生が落ちてしまったようだ。
トントンも眠気に勝つ気もなく、素直に落ちていった。
ゆさゆさと、誰かがトントンを揺する。
寝ぼけ眼を擦ると、泣き出しそうな鬱先生の顔があった。
メガネをしていないのでボヤけているが、鬱先生の目が腫れているのが分かる。
鬱先生は震えていた。
弱々しいと思った顔は、いつもよりひ弱に見えた。
トントンは耳を疑った。
だがそれと同時に、しょうがないとも思った。
トントンは「なんでこうなる」と思いつつもタンスからガムテープを取り出し、
ベッドを2分割した。
背中合わせで寝転ぶ。
お互いの体温が心地よかった。
ころ、と、鬱先生がトントンの背中を向く。
返答がない。
眠ったのかもしれない。
首だけ持ち上げて鬱先生を見てみると、安らかに寝息を立てていた。
トントンは持ち上げた首をぽふっと落とし、また「はあ」と溜息をついた。
静かな部屋に、鬱先生とトントンの息遣いが響く。
トントンも、覚めかけた意識が少しずつ落ちていくのを感じていた。
今度宿泊会でもしようかな、なんて思う。
トントンは一言呟くと、意識を完全に落としていった。
鬱先生の目が開き、その藍色の瞳に薄く緑がかっていることに気付かずに――
終わり
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。