僕は率直な意見を述べた。それはそうだ。あんなに弱々しいお爺さんがこんな犯罪をしでかすのであろうか?
そういって由香さんは、僕たちを部屋に入れた。そして、窓の隙間に、顔を突っ込んだ。
「ほら、あんたも見て!」と言われ、1mぐらいの隙間に顔をいれてお爺さんが住んでいる部屋の方向に首を曲げた。……確かに、窓と窓の間はは50㎝あるかないかっていうぐらいの近さだ。
僕は右側に首を曲げ、言う。右側の窓とこの部屋の窓は2m近く離れているが、その間に頑丈そうなパイプがあるので、なんとか頑張れば入れそうな気がする。
由香さんの話を遮って、理央さんが言った。
そういって、由香さんは消えていった。
理央さんは205号室の前に行き、インターホンを押した。すぐに鍵を開ける音が聞こえたので、この人は普通に土日は仕事を休んでいる人なのだろう。
中から出てきたのは奇抜…というか、派手……な格好をした20代ぐらいの女の人だった。女性のファッションはイマイチ分からないのでどう説明したらいいのかちんぷんかんぷんだが、目を引くような眩しい色の服で全身を包んでいる。
会って5秒で調査を始めるとは…。初対面でアリバイをいきなり求めるなんて、今日の理央さんは久しぶりの仕事でテンションが上がっているに違いない。
女性はテンションが上がって辺りを見回した。
「ただの」、とは言ったがこの事件は結構大事だろう。盗まれた100万円といえば、サラリーマンの年収と一緒なのだ。強いて言えば、一年分の給料を根こそぎとられるのと一緒だろう…。まあ、今回の場合、ボーナスで貰った100万円らしいのだが。
そういって彩乃さんは少しはにかんだ。店に行っていた、というならそこの店員などに聞けばすぐに分かるだろう。聞けばアリバイは成立する…。
そういって理央さんは強引にドアを閉めた。
今日の理央さんはとてつもなくグイグイ来ている。僕はいつもは静かな理央さんとのギャップに驚かされた。
そういって理央さんは203号室のインターホンを押した。ここの部屋には、確か黒星のお爺さんが住んでいるはずだ。はたして、この人が本当に犯人なのだろうか……。
僕も理央さんも26歳で、「若造」や「お嬢ちゃん」と呼ばれる歳では全くないのだが…。まあ、そこは目を伏せるとしよう。僕は言われるがままにお爺さんの部屋に入っていった。今からこの人に疑いをかけるのに、ばつが悪い気もするが。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!