【炭治郎side】
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
ずっと、俺を呼ぶ声が遠くに聞こえる。
でも、そんなことより今すぐにでもあの鬼の頚を斬ることしか頭になかった。
鬼だから、
人間だから、
だからなんだと言うのだ。
お前達だって元は人間だから同じだろうに。
ヒノカミ神楽を使っても息が上がらないし、苦しくない。
今なら斬れると思った。
襲いかかる帯を斬ろうと刀を振り上げたその時、俺の体は後ろに引っ張られた。
『炭治郎!!!!』
炭治郎「…ッ!」
目の前に広がるあの子の羽織。
俺のために怒鳴るあなたを見て、俺はやっと呼吸というものを思い出す。
自分は、ずっと気づかずに呼吸をしてなかったのか?
勢いよく入ってきた酸素は上手く肺に入ってこなかった。
炭治郎「ゲホ!!ゴホッ!!」
堕姫「さっきからゴチャゴチャと…
もういいわ、まとめて始末してやる!醜い糞餓鬼!!」
『─── スゥ』
あなたの呼吸の音が変わった。
なんだ?匂いが変わった…というより洗練されたような匂いだ。
その瞬間、堕姫の帯があなたに襲いかかる。
しかしあなたは、帯を斬るのではなく一纏めにして刀を突き立てた。
炭治郎「帯を一纏めに…」
堕姫「それで止めたつもり!?弾き飛ばしてやる!!」
トンッと軽く跳ぶと、刀で纏めた帯を自分の方に引き寄せる様に刀を振り、距離を詰めていく。
帯は透き通るほどのあなたの刀身に斬られ、その帯は碧水を滴らせていた。
呼吸がまだハァハァと荒くなっているのにも関わらず、あなたの動きに息を忘れた。
構えたあなたが刀を大きく一振り。
『 碧の呼吸 漆の型 透明碧の嘘 』
空振りするだけの刀に、俺も堕姫も呆気に取られる。
ただ、この場でたった一人、あなたの口はイタズラをした時のように弧を描いていた。
堕姫「…?アンタ何笑ってんの?盛大に空振りしてるわ、よっ!??」
その瞬間、堕姫の頚が宙を舞った。
後ろから見ていたからわかる。あなたの動きは空振りした一振りだけだ。
だが、確かに堕姫の頚はあなたによって斬られたのである。
炭治郎「!???」
『いや~いつ使えるかとワクワクしてたんだよねえ、使えてよかったー!
うわ、その顔ひっどいね』
堕姫「~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」
堕姫に向かって盛大に煽っていくあなたの顔は、今日イチの笑顔だった。
もうすぐで瓦に落ちそうな堕姫の頭は、凄い音を立てて蹴飛ばされる。
俺の、妹によって。
すうっとまた息を吸うと、また息を止めてしまっていたからか咳き込んでしまった。
心臓の飛び出そうな感覚がどうも気持ち悪くて、口元に手を抑える。
禰豆子「ヴーーーーーッ」
『禰豆子ちゃん…大丈夫、炭治郎は任せて』
禰豆子「ヴーーーーーッ」
未だ咳き込んでいる俺の元に、二人が心配そうな顔で駆け寄ってきてくれるのが視界の隅に見えた。
【炭治郎sideend】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。