『え?おい、その子だれ?』
二階堂先輩のデカい声が、耳に響く。
見なくても分かる。
絶対、嬉々としているだろう。
先輩に見えないように短く息を吐き出して、精一杯の苦笑いで振り返る。
「あーっと、この子は……」
『あなたっていいます。』
ニッコリと笑ってみせたあなたは、小首を傾げてこう続ける。
『二階堂先輩、ですよね?翔太くんから、いつもお話は伺ってるんです。お世話になってるみたいで。』
出た…。
とんだ猫かぶり。
っていう以前に、お世話になってるってどういう事だ?
「あなた…いいからもう帰れ。今、タクシー呼ぶ。」
冗談じゃない…
何やってんだよ。
これ以上、面倒事増やすなよ。
そうあなたに目で訴え座敷から出て、トイレ用の店のサンダルに足を引っ掛け、あなたの細い腕をグイッと掴む。
そんな俺を先輩の声が止めた。
『ちょいちょい…待てよ。その子、お前の何なの?彼女?』
あなたを帰す前に、一番されたくなかった質問をされて、一瞬ギクリと固まった俺をすかさずあなたの2つの瞳が鋭く見上げた。
正直、面倒極まりないが俺もそこまで心無いわけじゃない。
心で大きく息を吐いて、本当の事を言おうとした。
そんな俺を遮るのは、またしてもあなただった。
俺に掴まれた腕をやんわりと引き剥がして…
「あの、違います。私…翔太くんのいとこです。家が近所なので、翔太くんのお家によく遊びに行ったりするんです。それで、今日はたまたまここで飲むって事を聞いてたから…。」
よくもまあ…
いけしゃあしゃあと…。
この短時間でそんな嘘が並べられるもんだ。
『雨…降ってきたから、傘…持ってきたんですけど…ごめんなさい。おじゃましちゃったみたいですね。翔太くんも、ごめんね。』
あなたの眉尻を下げた苦笑いは、こんな俺の心でさえも何故か罪悪感で満たしてしまう。
例えそれが真っ赤なウソであったとしても…。
『そっかあ…いとこかあ。へえー…あなたちゃんだっけ?』
『あ、はい。』
『可愛いね。まさか、渡辺にこんな可愛いいとこが居たなんて。あなたちゃん、一緒に飲もー。』
おいおい。
「ちょ、二階堂先輩…!」
『何だよ。いいだろ。ちょっとだけ、な?あ、あなたちゃん、何歳?』
『最近、ハタチになりました!』
『へー。そっか。お酒好き?』
『はい!』
おい、バカ!
何が"はい"だ。
全然飲めないくせに。
「あなたっ…!」
思わず腕を掴み直した俺をあなたが笑顔で振り返る。
でも、振り返ったその笑顔は一瞬、無になった。
睨むわけでも、笑うわけでもない、大きな黒目が口を開けて固まる俺を映し出した。
あなたは、そんな俺を横目に二階堂先輩にニッコリ笑いかけて…
『じゃあ…ちょっとだけ失礼します。』
そう言って、履いていたサンダルを脱ぎ始めた。
こんな時に胸の大きく開いたセーターを着ていたあなたは、屈んだ拍子に何やら危ない事になっていて…。
こいつ絶対、わざとだ。
そんな確信があったにも関わらず、それに目が釘付けになっている二階堂先輩を見て、俺の中のどっかの糸がまず1本プツッと切れた…。
to be continued……
ーあとがきー
まだ続きます💦
相手のペースに巻き込まれる
しょっぴー🤣
こんな しょっぴーもいいかなぁと🤣
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!