第132話

コドモじゃない!②💙渡辺翔太
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2023/03/19 08:32
「お風呂ありがとう。」




ひょこっとお風呂場に続くドアから顔を覗かせると、ソファーに座って缶ビールを飲む翔太くんが私をチラリと見て、それからすぐテレビに目を戻す。




フローリングにペタペタと足音を立てて近づいて、ソファーの後ろから翔太くんが手にしている缶ビールを取り上げた。




『は?』




キッと睨まれたけれど、私は取り上げた缶ビールを口につける。




『おい!バカ!』
「ニガッ……。」




途端に広がる苦い味に顔をしかめる。




『…ガキ。』




そう言って鼻で笑った翔太くん。




「もーすぐハタチだもん。」




私はにこりと笑い返す。




『でも、お前はガキ。』
「ガキだと、思う?」




そう問いかければ、翔太くんはテレビ画面から目を離さずに…




『ガキだろ。』




って、呟く。




私はソファーの背もたれからよじ登って、翔太くんの隣に座ると、テーブルの上のリモコンを手に取り電源ボタンを押した。




途端に静かになった部屋。




翔太くんが隣の私を見る。




『おい、何で…。』




私を見た翔太くんは、目を見開いて明らかに動揺の色を見せた。




「何?」
『…下っ!!ズボンは?渡しただろ?何で、上しか着てないわけ?』
「えー、だって翔太くんのシャツおっきいもん。ワンピースみたいでしょ?」
『お前、"風邪引いちゃったかも"って、言ってただろ?』
「翔太くんのせいでね。」




そう言った私に、翔太くんは疲れたように小さく首を振る。




『…いいから早く下履け。それと髪も乾かせ。』
「じゃあ、翔太くんが髪拭いて?」




首にかけたタオルをするりと引き抜いて、翔太くんの目の前でプラプラと振る。




『は?』
「早く拭かないと風邪悪化しちゃう…。」




翔太くんは眉根を寄せて私を見据える。




もっと怒ればいい…。




もっと困ればいい…。




もっと悩めばいい…。




もっと私の事を考えてよ。




そんな事を思っていたら…




翔太くんが私の手からタオルを奪って、腕を引っ張り、ソファーに座る自分の前に座らせた。




私の髪をガシガシと乱暴に拭くから、私は暴れて抵抗する。




「痛い…!」
『じっとしてろ!』




私は翔太くんの腕を掴んで振り返る。




見上げれば私を見つめる翔太くんの瞳。




「優しくしてよ…。」




私は目を逸らさずに、そう呟く。



掴んだ翔太くんの手も私を見る眼差しも熱く…




不意に伸びた翔太くんの左手が、私の頬に触れて、輪郭をなぞる。




それからその指がおでこに触れて…




「…った!!」




でこピンされた。




「いったー…何するの!」




目に涙を溜めて睨みつけると、翔太くんが、ふはっと笑う。




『髪ぼさぼさ…。』
「ぼさぼさにしたの翔太くんでしょ!」




そう言って睨むと…




『前、向いてじっとしてろ…。』




って、タオルで頭を包まれた。




翔太くんは今度は優しい手つきで私の髪を拭く。




タオルの擦れる音と、時計の針のチクタクと鳴る音がやけに大きく聞こえる。




「翔太くん?」
『ん?』
「さっき…ちゅーしようとしたでしょ?」
『は?』
「だから、さっき。ちゅーしたいなって、思ったでしょ?」




翔太くんは私の髪を拭く手を止めない。




…残念。




今、どんな顔してるのか見たいのに…。




『…んなわけあるか。』
「どうして?」
『どうしてって…。あなた相手にそんな事、思うかよ。』
「…私が"ガキ"だから?」




私の言葉に、ぴたりと手を止めた翔太くん。




ゆっくりと振り返って、翔太くんの首に腕を回す。




ピクリと反応した翔太くんに思わず笑みが漏れた。

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