市川くんは「好き」って言ってくれない。
今日のために買った上着を羽織って家を出た。
普段と変わらず雑談をしながら歩いていた。
歩いて多種類の服が売っているところに行った。
真剣に服を選ぶ市川くんの横顔に思わず見とれた。
自分のために服を選んでくれているのがすごく嬉しかった。
恥ずかしそうに頭をかいた。
自分の選んだ服を褒めて貰えて嬉しかったが、必死に平然を装った。
コーデを決めるとそれを迷わず買った。
こういう大人の余裕に不意にキュンとする。
ニコニコしながらその服を着て一緒に街中を歩いた。
仕掛けてみるもやっぱり言わない。
なかなか好きなタイプに当てはまらない。
あくまでも「好きなタイプ」。
今付き合っているのは自分、わかっていてもモヤモヤする。
全然思い通りにいかない。
「好き」と言う気配は愚か、そういう雰囲気にすらならない。
基本、自分からここに行きたいと希望を出してこない。
出掛ける時に必ず「どこ行きたい?」と聞いてくる。
僕の行きたいとこが少し遠くても文句のひとつも言わずに、一緒に行ってくれる。
本当に楽しんでいるのかたまに不安になる。
なんとなく気まずくなってしまい、部屋に着くまでの会話がぎこちなかった。
市川くんは小太郎の気分が沈んでいるのを察していたのか、話しかけてこようとしなかった。
そっとしておこうという気遣いだろう。
自分から部屋に行きたいと言っておいて、部屋に着いても自分から話題を出せない。
言いたいことが沢山あるのに上手く言葉が出てこない。
スラっとした両手を広げ、小太郎を受け入れようとしていた。
市川くんからこういうことをするのはすごく稀で、戸惑い躊躇してしまった。
少し間を空けて腕の中に入ったが、その間を埋めるようにキュッと包み込んできた。
トントン、と優しく背中を叩いて不安定な情緒を落ち着かせてくれた。
低めの優しい声色で小太郎の様子を伺った。
その声と、香水と市川くん自身の匂いに安心して、口が緩んでしまう。
重たい口を開き、やっとの思いで伝えた。
子供みたいな事を言いたくなかった。
こんなしょうもない悩みに市川くんがどう反応するのか怖い。
相当嬉しいらしく口角を上げ、笑っていた。
でもその笑顔はどことなく悪戯っぽかった。
きっと小太郎は何もわかっていない。
市川くんのスイッチを押してしまったことに。
気を抜いて座っている小太郎をトンっと押した。
両手の自由を奪い、小太郎の上に跨った。
小太郎の表情が明るくなった。
優しい笑顔を一度小太郎に見せると、口にキスをした。
そんな急に言われると思っていなかった。
心の準備も何も出来ていないのに真っ直ぐ想いを伝えられたら、冷静になんていられない。
きっと市川くんの目には照れて見苦しい自分が映っている。大好きな市川くんの目を見れない。
言われる度に過剰に反応する僕を見てそう思っていたなんて考えもしなかった。
好きと言われるよりずっと恥ずかしくて、カァっと顔が熱くなった。
まるでこうなるとわかっていたかのようだった。
今回は絶対にシたら大変なことになる。
そういうことに鈍い小太郎でもわかった。
そんな事考えている間も身体にキスをされている。
引き下がる気なんて少しもないだろう。
愛おしそうに身体にキスをする市川くんがあまりにも綺麗で拒むことが出来ない。
頬に手を添え、再びキスをした。
さっきとは違う深いキス。
市川くんはキスが上手くて、少ししてるだけで頭がボーっとしてくる。
指に潤滑剤を馴染ませてナカに入れた。
唐突な刺激に声が出た。
家にいるのは自分と市川くんだけじゃない。
他に誰かもいるはず。
少し油断をすると声が聞こえてしまう。
声が出るのを気にせずに性感帯を探すように指が動いている。
声を聞かれたくない。
手のひらで口を覆った。
声を聞きたいらしく、不満気な表情を見せた。
すると、小太郎が達したのを確認して手を優しくとった。
自分に近づけ、さっきまで口を押さえていた手のひらにキスをした。
小太郎を熱っぽい視線で見つめた。
もう片方の手に指を絡めて押さえながらそう言った。
そんなこと出来るわけない。
必死に懇願を繰り返した。
承諾を得ると、ナカに優しく挿れていった。
小太郎に負担をかけないように動かし始めた。
口が少し大きい手で覆われた。
口を抑えられるのが思っていたよりも恥ずかしくて。いつもよりも身体が反応してしまう。
手から唇へと伝わる低めの市川くんの体温。
市川くんにもきっと自分の体温が伝わっている。触らなくてもわかるくらい顔が熱を持っていた。
少しだけ手の力を抜いた。
グッと市川くんの手を押し付けた。
小太郎の唇の柔らかさを手のひらで感じる。
押し付けられた唇の感触に理性が煽られる。
理性を保ちながらも腰を動かした。
気持ちよすぎて身体に力を入れれない。
市川くんの手を上から押さえるのが限界。
だんだんと早まる快楽に身体が追いつかない。
何度も耳元で囁かれる「好き」という2文字で飛びそうになる意識が引き戻される。
市川くんの手をトントンと2回叩いた。
少しでも油断をしたら声の大きさを調整出来ない。
気持ちよすぎて手に力が入らない。
手だけじゃ声が漏れてしまう。
市川くんも限界が近くて余裕が無くなっていた。
小太郎の口を塞ぐようにキスをした。
快楽が最高潮に達すると同時に身体がビクッと波を打った。
市川くんは達する瞬間に体内から抜いて中に液が入らないようにしてくれた。
小太郎に覆いかぶさって呼吸を整える。
まだ身体にさっきまで入ってた感覚が残ってる。
市川くんが隣に寝そべって虚ろな目で顔を見つめてきた。
トロンと垂れた目が柔らかい笑顔に華を飾る。
無自覚なのか、たまにこの表情で微笑む。
ー数日後ー
何気ない会話にどさくさに紛れて伝えてきた。
「好き」と言われたら数日前のことを思い出してしまう。
新たな楽しみ方を見つけて目から楽しんでることが伝わってきた。
市川くんにはやっぱり頭が上がらない。
けど、何をされても嫌いになれないあたり、自分がどれだけ市川くんの事を好きなのか再認識した。
僕が「好き」って唐突に言った時の反応を楽しみにしよう。
終
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!