高校2年生の春を迎えていた私は、
白いお城を背に
現実逃避するかのように、外の桜並木道のベンチへ腰掛ける。
風が吹いた。
その風に乗ってきた、香り。
私が好きな香り。
「桜って…幸せなんですかね。」
その香りと共にやってきた、
なぜか安心してしまうこの声に私は答えてしまった。
「きっと、幸せですよ。」
「1年に1度しか咲かないのに?すぐ散ってしまうのに?」
「裏を返せば1年に1度、必ず咲きます。
そして、こんなにも多くの人がそれを見に来る。
それだけで幸せでしょう。」
「それにほら、私みたいに1年中ここに来て桜
を見る物好きなひともいる。
そんな人に1人、この世界でめぐり逢えたら…」
「きっと、世界で1番幸せです。」
「そっか…。」
「あ、突然すみません。ちょっと道をお尋ねしたいんですけど…」
「あ、はい!」
振り向くとそこには…
_____彼がいた。
「…あ、あぁぁぁぁあ!!!」
「しーっ!静かに。」
「す、すみません。つい…」
笑いながら地図を見せ、道を聞く彼に私は…
また、一目惚れした。
「ここを右で、2本目を左。」
「そこから4軒目です。」
何度目かの確認に答えるが、
「え、、?ここが…?」
自信は無さそうだ。
「あの…良かったら、案内しますよ?」
ドキドキをおさえながら、思い切って言ってみた。
「いや、でも…」
私の服を見て戸惑う彼。
「あ、ちょっと準備してきます!」
そう言って、彼を私の部屋の前のベンチで待たせ、部屋に入る。
すると…
いる予定のない、両親がいた。
「え?どうしたの。」
「…茉衣(まい)どこへ行っていたんだ。」
「すぐそこの桜並木」
「話があるから、座りなさい。」
重々しい空気に、
嫌な予感だけはしていた。
「将来はどうするんだ。
お前がどうしても、近くの公立高校が良いと言うから認めたものの、これからどうするんだ。」
今、話さなくてもいいじゃない…。
私の予感は当たった。
高2になってから、こんな話が増えた。
父親はこうやってたずねてくるけど、
これ以上、私の意見が通ることはない。
だから、黙る。
腹立ったり、、しないように。
その木の葉の数、机の木の目の数、なんでもいい。
ひたすら数えていれば、いつか終わる。
ただ、今日だけは…
“なるべく早く終わりますように”
そう願った。
すると、
「あのね、茉衣これ見て。
素敵なひとでしょう?
立派な写真を見せてきた。
今度、お父さんの仕事でお世話になる会社の社長の息子さんなの。
もし良かったら1度会ってみないかって、お誘いしてもらってね。」
「えっ…?」
まだ意味が理解しきれていない私に追い打ちをかけるように…
「父さんは、進学だけが道じゃないと思っている。」
なんて、言い出した。
やっと意味を理解した私は、
言う予定の無かった、
でもずっとどこかにあった言葉を、
口に出してしまった。
「それは…私にとっていい話じゃなくて、
あなたたちにとっていい話でしょ?」
「茉衣!!家族は大事にしろとあれだけ…」
「家族じゃない!!!!」
…………
…言ってしまった
唯一私が繋ぎとめてきた “居場所” をついに…
手放してしまった。
「私たち、血が繋がってないでしょ。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。