第5話

自覚
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2023/11/25 11:00
周
つかさの進路面談、
長引いてるねぇ
廊下の壁際でしゃがむ村宮は、
ドアの閉め切られた教室を心配そうにじっと
見つめている。
和田の面談が終わるまで待つと言って聞かない村宮と共に
空き教室で待機していたが、そわそわ落ち着かない
村宮に連れられ、現在は教室の前にいる。
あの日以来、村宮は和田を一人にしたくないのか、
どこへ行くにもついて回っていた。

そんな村宮を見ていると、
やがてがらりと教室のドアが開き、和田が出てきた。
周
あ! つかさ!
司
あれ、宮ちゃんたち荷物は?
成也
成也
空き教室にあるで。
村宮が待てんからってここに来てん
司
宮ちゃんボクのこと大好きじゃん
周
だって全然帰ってこないんだもん!
葵衣
葵衣
大好きの部分は
否定した方がいいんじゃねぇか?
司
なんでそういうこというかな
成也
成也
嫉妬してるんやろ
司
やだ、ボクってば人気者~
葵衣
葵衣
都合のいい脳みそしてんな
司
宮ちゃ~ん、
アイアイがいじめる~!
葵衣
葵衣
小学生か
あの時、すぐ追いかけていった村宮と
どんな話をしたのかは知らない。
だが、一人になりたいと言った和田は、
俺らとは変わらず過ごしている。
それでもどこか、無理をしているように
感じてしまうのは表情に覇気はきがないからだろうか。















司
ねぇ、アイアイって
大学決めたの早かったじゃん?
どうしてK大に決めたの?
空き教室に戻ってきて話していると、
ふいに和田がそう聞いてくる。
葵衣
葵衣
ある程度有名で、
卒業後の進路が安定してそうだから
K大に決めたのは、本当に早かった。
特に学びたいことがあるわけじゃない。
それなりに偏差値が高く有名な大学を出て、
大企業に就職できればいい。
俺が求めるのは安定した生活。それだけだ。
葵衣
葵衣
……んだよその目は
成也
成也
さんざん人に説教しといて、
お前はそんな理由やったんやな
睨み返すと、視線よりも冷たい言葉が返ってきた。
葵衣
葵衣
そんな理由ってなんだよ。
しっかり考えてんだろ
成也
成也
つまらん人生を選ぶんやなお前は
葵衣
葵衣
K大とK大生に謝れ
葵衣
葵衣
何なのお前。
K大に恨みでもあんの?
成也
成也
恨みはないねん。
けどそんな理由で進路決めたやつに
説教されたんかって思うと
葵衣
葵衣
立派な理由だろ。
ちゃんと将来考えて決めてんだから
突っかかってくる三浦の相手が面倒になって、
和田に向き直る。
葵衣
葵衣
で? 和田はなんで
そんなこと聞いてきたんだよ。
さっきの面談でなんか言われたのか?
質問してきたくせに、
俺の答えを聞いてもずっと黙っている。
周
つかさ?
どうしたの?大丈夫?
司
大丈夫だよ宮ちゃん
葵衣
葵衣
決まんねぇのか? 進路
司
うん。
ずっと先生と話してるんだけど、
どうにも決めきれなくて
周
行きたい学校、いっぱいあるの?
司
うーん、どうだろ
何とも曖昧あいまいな返事。
いつも通りの笑みは浮かべているものの、
どこか浮かない様子だ。
成也
成也
ひっかかってることでもあるんか
顔を上げた和田が視線を彷徨さまよわせる。
その視線を首をかしげている村宮で止めると、口を開いた。
司
先生は親身に話してくれるんだけどさ、
どうしても裏を探しちゃうんだよね
周
裏?
司
そう、裏
司
お前はこういうのが得意だから
かせる進路をって言われても
ひねくれた受け取り方しか出来ないし
司
こういうのが向いてるんじゃないか、
って言われても出まかせなんだろうなって
思っちゃったり
和田のことを本当に知っているのか、と聞かれれば
俺は知らないと答える。
人との距離が妙に近かったり、
村宮に対する感情が重すぎたり、
人に裏切られたことがある、
ということは知っている。
でもおそらく、俺が知らない悩みを
和田は隠して抱えているんだろう。
司
じゃあ自分の好きな所って言われても、
ボクが選ぶのって絶対
宮ちゃんと同じところじゃん
周
え、そうなの?
司
宮ちゃんがこうだからこう、って
選んでたんだよずっと。
高校だってそう。
自分で選んだことなんてほとんどない
司
宮ちゃんに依存してる、
なんて自分でもわかってるもん
村宮への激重感情を、和田はしっかり自覚してる。
和田の思考の中心は常に村宮だった。
葵衣
葵衣
人間不信を救ってくれた天使、
だっけか
司
ふふ。うん。そう。
今回だって救ってくれちゃったし
司
もう宮ちゃんなしじゃ
生きていけないもん
自嘲じちょうじみた笑みを浮かべる和田とは裏腹に、
村宮は心底驚いたような顔をしていた。
周
え、えっ!?
つかさ僕に依存してたの!?
葵衣
葵衣
……嘘だろお前
成也
成也
わかってはいたけど鈍感どんかんさんやな
周
えー! 二人は気付いてたの!?
言ってよ!
葵衣
葵衣
言うわけねぇだろ。
なんで『和田がお前に依存してるぞ』
ってわざわざ言うんだよ
周
それもそっか……
周
でも僕、何もしてないよ?
至極しごく不思議そうに首をかしげる村宮に、和田は小さく笑った。
司
宮ちゃんはさ、ボクが
周りからいろいろ言われてるときも
一緒に居てくれるじゃん。
ボクが付きまとっても
突き放したりはしなかった
司
今回だって、色んな噂が回ってるのに
そばに来てくれた
司
そういうところに、
ボクは依存してるの
司
また裏切られるかもしれない、
また一人になるかもしれない
って思いながらもさ、
宮ちゃんたちといるのは楽しいんだよ
依存している理由を本人に話すなんて、
なかなかない光景だろう。
それでも、和田は隠さずに話した。
それがきっと、和田なりの整理の仕方なのかもしれない。
もしこれで村宮に距離を置かれたとしても、
それでいいとでさえ思っているんだろう。
周
じゃあ僕もつかさに
依存してるってこと?
村宮の言葉に、今度は和田が首をかしげる番だった。
周
だってそういう事でしょ?
僕だって一緒に居てもらってるし、
すぐ頼っちゃうし
周
弱ってるときに支えてもらってるのは
僕の方だよ!
つかさは優しいし、聞き上手だし、
僕すぐ甘えちゃうの!
司
宮ちゃん……
周
ね、つかさ!
周
僕が進路に悩んでるときに
何も言わずにそばにいてくれたの、
あれすっごい嬉しかったんだよ!
周
だからね、僕はつかさがしてくれた
嬉しいことをお返ししてるだけなの
周
どんな噂が流れてても、
つかさはつかさだよ
周
僕が寂しい時に
一緒に居てくれたつかさに、
変わりはないんだよ!
和田の手を握りながら興奮こうふん気味に話す村宮は
その後も止まらなかった。
だけど、俺も三浦も止めようとはしない。
止めるのも、茶々をいれるのも、野暮ってやつだ。
今まで支えてもらったこと、嬉しかったこと、
それらを話し続けながらも村宮は
和田の手を離したりはしない。

村宮は嘘をつかない。お世辞を言うこともない。
それを一番わかってるのはきっと、和田だ。
司
ありがとう宮ちゃん
村宮の手を握り返しながら、和田はふわりと笑った。
去年の修学旅行で見た時と同じような、
怖いくらいに優しい目で。
周
まだ時間はあるよ。いっぱい悩もう。
僕、ずっと一緒にいるから!
司
ありがと。
でも、ちょっと見えてきたかも
きょとんとする村宮に和田はどこか吹っ切れたような、
何かを決意したような、そんな表情を浮かべていた。

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