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第1話

新学
2,703
2023/10/28 11:00
先生
えー今年度から三年生ということで、
受験の年になります。
各自自分の将来を考えて
志望校を選んでください。
また……
葵衣
葵衣
(三年か……)
高校三年生の春。ついに俺たちは受験生。
新学期も始まって間もないのに、三年生全員が
講堂に集められて進路ガイダンスを聞いている。
これからこういった行事が増えて忙しくなるだろうし、
去年みたいに遊んでばっかではいられないだろうな。
この時期が人生の分岐点にも
なり得ることを感じているのか、大半の生徒が
真面目に先生の話を聞いていた。
周
…………
あの村宮でさえも、真剣な顔で前を向いている。
けれど。
司
花粉が飛んでない時期なんてないらしいよ
成也
成也
へぇ。そら大変やな
司
花粉も働き者だねぇ
後ろから聞こえてくる会話に、
思わずため息がこぼれそうになる。
真剣な村宮と違い、和田と三浦は小さな声で
呑気のんきな話をしている。

何だよ働き者の花粉って。
三浦も絶対興味ないだろその反応。










───
司
一番患者数が多いのは北海道なんだってさ
成也
成也
さっき北海道はスギ花粉少ない言うとったやん
司
花粉患者じゃなくて、
通年性のアレルギー性鼻炎患者。
スギ花粉症の患者は日本一少ないんだって
成也
成也
寒い地域に住んどるくせに鼻は軟弱なんじゃくなんやな
司
あっ、今すごい人数を敵に回したよ
司
道民のみなさーん、ボクは何も言ってませーん
進路ガイダンスが終わり、
ざわつく廊下を歩きながら教室に戻る途中。
どうでもいい話を続ける
和田と三浦が持つガイダンス冊子には、
メモを取った形跡けいせきなどどこにもない。

ていうか、まだ花粉の話してんのかよ。
周
なになに?
つかさとせいやは花粉症なの?
司
ちがうよ~
成也
成也
オレもちゃう
葵衣
葵衣
じゃあなんでずっと花粉の話してんだよ……
司
この時期と言ったら花粉じゃん?
辛そうにしてる子たち
たくさんいるな~って思って
葵衣
葵衣
それより真面目にガイダンス受けろよ
司
さっきのガイダンスにも辛そうな子いたよね
成也
成也
すすっとったやついたな。
腹減ったわ
葵衣
葵衣
いやなんでだよ
成也
成也
そばすする音とちょっと似とるやん
葵衣
葵衣
……いや……お前それはちょっと……
成也
成也
あ?
司
まぁまぁ、感じ方は人それぞれだよアイアイ。
自分は違うからって、
セッチを否定するのは違うじゃん?
葵衣
葵衣
まぁ……確かに。
でもお前に言われるのはなんか腹立つな
周
つかさもお腹空いた?
司
いや?
すする音を聞いて
そばすする音って言うのはちょっと……
葵衣
葵衣
数秒前と言ってること違ってんじゃねぇか
成也
成也
うどんか
葵衣
葵衣
そういう問題じゃねぇ
教室に着くまでの間も、
和田と三浦はどこかずれた会話を続けている。
どうしてこうもツッコミどころが多い会話が
得意なのだろうか、こいつらは。

さっさと自分たちの席に戻っていく和田たちに、
俺はこらえきれずため息をついた。
周
ねぇねぇ、あおい
和田たちと同じく自分の席に戻ったはずの
村宮が俺の前にやってくる。
その表情はいつもの笑みではなく、
どこか心配そうなものだった。
周
つかさとせいや、進路どうするのかなぁ
村宮は、ちらちら和田と三浦を見ている。
三浦は机に伏せて寝ているし、
和田は席の近い女子たちと話している。
ガイダンスで使っていた冊子を
見返すフリさえもしなかった。
周
さっきのガイダンスも
聞いてなかったみたいだし……。
でも、去年は先生と面談してたから
進学するにはするでしょ?
葵衣
葵衣
そうだな。
二人とも進学するっていうのは
決めてたみてぇだし
周
志望校について、聞いたことある?
葵衣
葵衣
お前が聞いてなかったら俺も知らねぇよ
周
う~~ん、大丈夫かなぁ……
葵衣
葵衣
まぁ、先生も夏までに
決まってればいいって言ってたし、
今俺らが出来ることもねぇだろ
周
うん……
葵衣
葵衣
お前はお前で、自分の勉強に集中しろよ
周
うん、そうだよね
口では納得したように返事をするも、
村宮はまだ心配そうに和田と三浦を見ている。
まぁ、こいつはそうだろうな。
自分のことよりも、他人を優先しがちな奴だから。


いろいろ問題が出てきそうな予感に、
俺は思わず頭を抱えた。
葵衣
葵衣
大変な一年になりそうだな……

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