高校三年生の春。ついに俺たちは受験生。
新学期も始まって間もないのに、三年生全員が
講堂に集められて進路ガイダンスを聞いている。
これからこういった行事が増えて忙しくなるだろうし、
去年みたいに遊んでばっかではいられないだろうな。
この時期が人生の分岐点にも
なり得ることを感じているのか、大半の生徒が
真面目に先生の話を聞いていた。
あの村宮でさえも、真剣な顔で前を向いている。
けれど。
後ろから聞こえてくる会話に、
思わずため息がこぼれそうになる。
真剣な村宮と違い、和田と三浦は小さな声で
呑気な話をしている。
何だよ働き者の花粉って。
三浦も絶対興味ないだろその反応。
───
進路ガイダンスが終わり、
ざわつく廊下を歩きながら教室に戻る途中。
どうでもいい話を続ける
和田と三浦が持つガイダンス冊子には、
メモを取った形跡などどこにもない。
ていうか、まだ花粉の話してんのかよ。
教室に着くまでの間も、
和田と三浦はどこかずれた会話を続けている。
どうしてこうもツッコミどころが多い会話が
得意なのだろうか、こいつらは。
さっさと自分たちの席に戻っていく和田たちに、
俺はこらえきれずため息をついた。
和田たちと同じく自分の席に戻ったはずの
村宮が俺の前にやってくる。
その表情はいつもの笑みではなく、
どこか心配そうなものだった。
村宮は、ちらちら和田と三浦を見ている。
三浦は机に伏せて寝ているし、
和田は席の近い女子たちと話している。
ガイダンスで使っていた冊子を
見返すフリさえもしなかった。
口では納得したように返事をするも、
村宮はまだ心配そうに和田と三浦を見ている。
まぁ、こいつはそうだろうな。
自分のことよりも、他人を優先しがちな奴だから。
いろいろ問題が出てきそうな予感に、
俺は思わず頭を抱えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。