第2話

相談
705
2023/11/04 11:00
にぎやかな声が飛び交う夕方のファミレス。
その一角に座った俺は頭を抱えていた。
周
ここのプリン美味しいんだよ!
一緒に食べない?
ええんですか? 食べたいです
葵衣
葵衣
……なんでこんなことに……













────


周
う~~~……全部が難しい……
司
あちゃあ、宮ちゃんがゆだっちゃってる
成也
成也
授業のスピード、一気に速なったしな。
無理もないんちゃう
葵衣
葵衣
三浦もそんな余裕ぶってる
場合じゃねぇだろ
詰め詰めな授業を終え、
頭を押さえる村宮を筆頭ひっとうに連れたって下校する。
前までは誰かと一緒に下校するなんて考えられなかったが、
今ではこれが当たり前。
今日も相変わらずのにぎやかさだ。
司
そう言えば宮ちゃん。
この間の模試、
志望校の判定どうだったの?
周
えっ……
葵衣
葵衣
そういやそうじゃん。
どうだったんだよ
周
え、えっとぉー……
わかりやすくうろたえた村宮は、
言葉を探してまた頭を押さている。
この反応からすると、あんまり
よくない結果だったんろうな……。
同じように察したらしい和田が
話題を変えながら校門を出ようとしたその時、
三浦の足が止まった。
葵衣
葵衣
三浦? どうし……
校門の前で足を止めた三浦がまっすぐ前を向いている。
その視線を追っていくと、思わず言葉が引っ込んだ。
校門の脇に立っている少年。
見覚えのある学ランは、確かこの近くの中学のものだ。
少しだけ眠そうな顔をしたその中学生は、
誰かにひどく似ていた。
周
あ! やまとくん!
「やまと」と呼ばれた中学生はこちらに気付くと、
ぺこりと深く頭を下げた。
け寄った村宮と仲良さげに話している。
葵衣
葵衣
……どちらさま?
司
あー、アイアイは初めてだっけ。
大和くんです
葵衣
葵衣
いや名前は聞いたよ。
中学生だろ、なんで……
成也
成也
大和。なんでここおんねん
大和
大和
兄ちゃん、おれ、
周さん待っててん
葵衣
葵衣
兄ちゃん!?
兄ちゃんって!?
三浦が!?
思わず三浦と大和を交互に見る。
三浦がなにかひらめいたような顔をして、大和の肩を抱いた。
成也
成也
大和、自己紹介したり
大和
大和
三浦大和です。中学二年生の13歳です。
よろしくおねがいします
無表情のまま少しだけなまりの入った敬語で
自己紹介をしてくれた大和は、またぺこりと頭を下げる。
さっきも思ったけど、こいつお辞儀が深い。
……いや、そうじゃなくて。
葵衣
葵衣
三浦!? えッ! 兄ちゃん!?
お前が!?
成也
成也
なんや? お兄ちゃんやで?
葵衣
葵衣
似合わねぇ~~~~~ッ!!!!
ずっと一人っ子だと思ってた!
弟居んのかよこいつ! 似合わねぇ~!
しかも弟の方がちょっと礼儀正しそうじゃねぇか!
ほんとに兄弟か!?
いや、表情があんまり動かないところはそっくりだけども!

……そういえばこいつ、意外と面倒見良かったような……?
司
ヤッチどうしたの?
高校までくるのは珍しくない?
葵衣
葵衣
うわ、お前のあだ名で
思考全部吹き飛んでったわ。
なんだよヤッチって
司
ヤッチはヤッチだよね~
大和
大和
はい。
あの、周さんお借りできますか?
和田にも律儀りちぎに返事した大和は、
そばに居た村宮の腕を掴んだ。
突然の大和の宣言に、当の村宮はきょとんとしている。
周
え、僕?
大和
大和
はい。
ちょっと相談したいことがありまして
周
相談……!
大和
大和
はい
周
わかった任せて!
あ、でもあおいもつれてっていい?
葵衣
葵衣
え、何故なにゆえ
大和
大和
構いません
大和
大和
兄ちゃん。
俺、ちょっと帰り遅れるわ
葵衣
葵衣
いや、なん……
成也
成也
その相談はオレには聞かれたくないんか
大和
大和
兄ちゃんには……えっと
表情を変えないままうつむいた大和は、
村宮の腕を掴む手に少しだけ力を入れた。
てか俺を無視すんなよ。
司
まぁまぁ、ヤッチが宮ちゃん
所望しょもうしてるんだし?
セッチは大人しくボクと帰ろーね
成也
成也
あ、おい
成也
成也
……大和、
夕飯までには帰ってくるんやで
それだけ言い残すと、三浦は
大人しく和田に連れて行かれた。
意外としっかり兄ちゃんしてやがる……。
周
よし! 僕らもいこ!
大和
大和
はい
周
ほら、あおいも行くよ!
葵衣
葵衣
どうして……





そうして村宮になかば引きずられるよう
やってきたファミレス。
隣に座る村宮が、向かい側に座った大和に
メニュー表を見せてはしゃいでいる。
年齢的には村宮の方が年上なのに、
大和の方が落ち着いているのがまた変な感じ。
周
相談って、せいやのこと?
注文を終えると、村宮が口火くちびを切る。
大和
大和
はい。
あの、周さんにしか頼めないと思って

大和
大和
兄ちゃんを、説得してほしいんです

単刀直入に言ってきた大和に、
村宮が驚いたように何度も瞬きを繰り返した。
周
えっと……説得って言うのは?
大和
大和
兄ちゃんの進路についてです
周
進路……
大和の言葉に、思わず村宮と目を合わせる。
少し前、その話を村宮としたばかりだ。
周
せいや、進路について何か言ってるの?
大和
大和
その逆です
周
逆?
大和
大和
兄ちゃん、何も言ってくれないんです
大和
大和
少し前までは話してたんですが、
一回じいちゃんたちと意見がぶつかって……
あ、でもそんな言い合いとかは
なかったんですけど。
でも、それから進路について
何も話さなくなって
大和
大和
多分、このままじゃ
兄ちゃんがほんとに行きたい学校に
行けないんじゃないかって
淡々たんたんと、けれどどこか熱をもって話す大和からは、
三浦のことを心から心配してるのだと伝わってくる。
三浦が進路についてどこか身が入っていなかったのは、
こういう状況があったからなのだろう。
俺たちが出来ることなんてほとんどない。
ましてや三浦の進路だ。
他人がとやかく言うべきではないとは思う。

思うのだけれど。

周
やまとくんは、せいやに
行きたい学校に行ってほしいんだよね?
大和
大和
はい。
兄ちゃんは、ずっと俺や
じいちゃんたちのために動いてくれたから。
これからは、兄ちゃんの好きなことに
時間をいてほしい
周
うんうん。そうだよね、
せいやって優しいもんね!
周
任せて!
そのお願い、引き受けるよ!
きっとここで俺が「やめたほうがいい」といっても
その意見はまた無視される。
村宮は一人でも大和の願いを聞き入れるだろう。
自分の受験勉強があるというのに。
周
ね、あおいも一緒に
せいやを説得しようよ!
葵衣
葵衣
……まぁ、お前だけじゃ
出来なさそうだしな
このお人好しに振り回されるのももう、
最近は慣れっこになって来たし。

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