賑やかな声が飛び交う夕方のファミレス。
その一角に座った俺は頭を抱えていた。
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詰め詰めな授業を終え、
頭を押さえる村宮を筆頭に連れたって下校する。
前までは誰かと一緒に下校するなんて考えられなかったが、
今ではこれが当たり前。
今日も相変わらずの賑やかさだ。
わかりやすくうろたえた村宮は、
言葉を探してまた頭を押さている。
この反応からすると、あんまり
よくない結果だったんろうな……。
同じように察したらしい和田が
話題を変えながら校門を出ようとしたその時、
三浦の足が止まった。
校門の前で足を止めた三浦がまっすぐ前を向いている。
その視線を追っていくと、思わず言葉が引っ込んだ。
校門の脇に立っている少年。
見覚えのある学ランは、確かこの近くの中学のものだ。
少しだけ眠そうな顔をしたその中学生は、
誰かに酷く似ていた。
「やまと」と呼ばれた中学生はこちらに気付くと、
ぺこりと深く頭を下げた。
駆け寄った村宮と仲良さげに話している。
兄ちゃんって!?
三浦が!?
思わず三浦と大和を交互に見る。
三浦がなにか閃いたような顔をして、大和の肩を抱いた。
無表情のまま少しだけ訛りの入った敬語で
自己紹介をしてくれた大和は、またぺこりと頭を下げる。
さっきも思ったけど、こいつお辞儀が深い。
……いや、そうじゃなくて。
ずっと一人っ子だと思ってた!
弟居んのかよこいつ! 似合わねぇ~!
しかも弟の方がちょっと礼儀正しそうじゃねぇか!
ほんとに兄弟か!?
いや、表情があんまり動かないところはそっくりだけども!
……そういえばこいつ、意外と面倒見良かったような……?
和田にも律儀に返事した大和は、
そばに居た村宮の腕を掴んだ。
突然の大和の宣言に、当の村宮はきょとんとしている。
表情を変えないまま俯いた大和は、
村宮の腕を掴む手に少しだけ力を入れた。
てか俺を無視すんなよ。
それだけ言い残すと、三浦は
大人しく和田に連れて行かれた。
意外としっかり兄ちゃんしてやがる……。
そうして村宮に半ば引きずられるよう
やってきたファミレス。
隣に座る村宮が、向かい側に座った大和に
メニュー表を見せてはしゃいでいる。
年齢的には村宮の方が年上なのに、
大和の方が落ち着いているのがまた変な感じ。
注文を終えると、村宮が口火を切る。
単刀直入に言ってきた大和に、
村宮が驚いたように何度も瞬きを繰り返した。
大和の言葉に、思わず村宮と目を合わせる。
少し前、その話を村宮としたばかりだ。
淡々と、けれどどこか熱をもって話す大和からは、
三浦のことを心から心配してるのだと伝わってくる。
三浦が進路についてどこか身が入っていなかったのは、
こういう状況があったからなのだろう。
俺たちが出来ることなんてほとんどない。
ましてや三浦の進路だ。
他人がとやかく言うべきではないとは思う。
思うのだけれど。
きっとここで俺が「やめたほうがいい」といっても
その意見はまた無視される。
村宮は一人でも大和の願いを聞き入れるだろう。
自分の受験勉強があるというのに。
このお人好しに振り回されるのももう、
最近は慣れっこになって来たし。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!