第3話

説得
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2023/11/11 11:00
葵衣
葵衣
おら吐け! 証拠しょうこがってんだよ!
周
そうだそうだ!
このやまとが目に入らぬか!
大和
大和
…………
腹を抱えて笑う和田の声を聞きながら、
俺と村宮は三浦に迫る。
じっと三浦を見つめる大和の表情は真剣で、
本気で三浦を説得したいのだとわかる。

村宮と俺は、早速行動に移していたのだった。










──

司
アイアイ何歌うの?
葵衣
葵衣
俺は歌わねぇ
司
えーせっかくカラオケ来たのに?
葵衣
葵衣
本題はそれじゃねぇって言ってんだろ
成也
成也
音痴おんちやから歌いたくないんやろ
葵衣
葵衣
ちがう!
目的がちげぇって言ってんだよ!
司
も~むきになっちゃって。
ほら、音痴おんちなアイアイでも歌えるように、
どんぐりころころ入れてあげたよ
葵衣
葵衣
マイク向けられても歌わねぇからな
周
みてみて~!
ソフトクリーム、きれいに出来た!
大和
大和
お待たせしました
滅多めったに来ないカラオケで
和田とマイクの押し付け合いを繰り広げていると、
満面の笑みを浮かべた村宮が大和と共に
ソフトクリームを持ってきた。
おい、こいつも本題忘れてねぇだろうな。
周
わ~! どんぐり流れてる!
誰入れたの?
司
アイアイのために
入れたのに歌ってくれないの。
ひどくない??
葵衣
葵衣
誰も頼んでねぇんだって
成也
成也
大和、冷たいもんばっか食うと腹壊すで。
熱い茶も飲めや
大和
大和
うん。持って来とる。
兄ちゃんのもあるで
成也
成也
……あーええなぁ。悪ないわこの茶
葵衣
葵衣
おい和んでんなよそこ!
村宮と和田はカラオケに集中しだすし、
三浦兄弟は茶とソフトクリームで和んでるし……。
なんなんだよもう。
普通に遊ぶだけなら俺はカラオケなんか選ばなかったのに!

話をするなら個室の方がいいって!
だからカラオケを選んだんだろうが村宮ぁ!

怒りのまま、楽しそうにタッチパネル式のリモコンを
のぞき込んでいる村宮のえりを掴んだ。
周
わぁっ! どうしたのあおい
葵衣
葵衣
どうしたのじゃねぇよ!
遊びに来たわけじゃねぇだろ!
周
えへへ、ちょっと
テンション上がっちゃって……
わざとらしい咳を二度した村宮は、いそいそと座り直した。
その視線の先には、三浦。
周
えっと、今日お集まりいただいたのは
せいやにお話を聞きたく!
成也
成也
オレ?
周
そう!
周
せいやはさ、進学、どう考えてるの?
直球でたずねた村宮から視線をそらし、三浦は大和を見た。
行儀良くお茶を飲んでいた大和も、
話が始まってからはじっと三浦を見つめていた。
けど交わった視線はすぐに外される。
三浦によって。
成也
成也
どう考えとるって……
そりゃ、大学行くけど
周
もう志望校決まってるの?
成也
成也
……まぁ。
この前進路調査票も出したし、そこやな
周
そこはせいやが行きたいとこ?
成也
成也
……せやで
大和
大和
ウソや
ずっと黙って聞いていた大和が声を上げた。
大和
大和
ウソやろ。
兄ちゃんの第一志望、違う学校やったやん
成也
成也
……変わったんや
大和
大和
じゃあ、なんであんな悩んでたん?
部屋でずっと、前の第一志望の学校の
パンフレット見とったやん
大和
大和
ほんまは、変わってへんとちゃうの
成也
成也
…………
大和の言葉に黙りこくってしまった三浦。
あまり表情は変わらないが、
何を考えているのかはなんとなくわかる。
言い訳か、相手を言いくるめる言葉か。
だがそうはさせねぇ!
三浦の目の前に、二枚の紙を突きつける。
それは、去年と今年の、三浦の進路調査票だった。
葵衣
葵衣
お前が一番最初に志望してた学校と、
この前提出した志望校が違ってんのは
調査済みなんだよ
葵衣
葵衣
理学療法りがくりょうほう学科とか
専門的なとこ目指してたくせに、
なんで急に教養学部に変わってんだ
成也
成也
なんでお前がそれ持ってんねん
葵衣
葵衣
うちの担任に
個人情報保護法なんてもんは通用しねぇ
成也
成也
あいつほんまクソ教師やな
去年も俺たちの担任だった教師は、非常にゆるい。
それで苦しめられたことも多数あったが、
今回は逆にそれを利用してやった。

けどあいつは本当にやばいと思う。
葵衣
葵衣
おら吐け! 証拠しょうこがってんだよ!
周
そうだそうだ!
このやまとが目に入らぬか!
俺の勢いに便乗びんじょうして、村宮が大和の肩を掴んだ。
口を挟む様子のない和田は
この刑事ごっこに腹を抱えて笑っている。
いいな。第三者は気楽で。
大和
大和
ばあちゃんたちに言われたこと、
気にしてんねやろ
村宮に肩を掴まれたままの大和が言う。
三浦はデカいため息をついて頭を掻いた。
成也
成也
……べつに、ばあちゃんたちが
言っとることも理解できんねん
周
意見、ぶつかっちゃったの?
成也
成也
そんなとこやな
成也
成也
オレ、ほんまに
理学療法士りがくりょうほうしになりたいねん。
去年からずっと考えとって、
学校も学費が安いところから探して、
そこに決めてん
大和
大和
でも兄ちゃんがそう言ったら、
じいちゃんたち、
認めてくれへんかったんです
司
えー意外。
おばあさまたち、セッチの
やりたいこと認めてくれそうなのに
成也
成也
……自分たちのせいやって
周
え?
成也
成也
ばあちゃんたちは、オレが
理学療法士りがくりょうほうしになりたいって言ってるのは
自分たちのせいやって思ってんねん
葵衣
葵衣
なるほどな。
自分たちのせいで三浦の進路を
せばめてるって感じてるってことか?
成也
成也
せや
周
え、どういう……?
葵衣
葵衣
理学療法士りがくりょうほうしになりたい
っていう三浦の夢は、
じいちゃんたちへの恩返しのためだって
思われてるってこと
周
あぁ! せいやが
自分の意志で選んだわけじゃないって
思われてるってこと?
大和
大和
でも、兄ちゃんは本当に
理学療法士りがくりょうほうしになりたいんやろ?
色々調べとったやん
湯気の消えたお茶をじっと見つめる三浦に、
大和がたたみかける。
大和
大和
兄ちゃんのことやから、その夢に
少なからずばあちゃんたちへの思いが
あんのは分かんねん。
だから、ばあちゃんたちも
ああ言ったとは思うねんけど
大和
大和
せやけど、兄ちゃんの
意志でもあるんちゃうの?
大和
大和
兄ちゃん自身が選んだ、夢やないの?
中学生にしてはしっかりした言葉に、
思わず村宮と目を合わせる。
これ、俺たちいらなかったのでは。
成也
成也
……理学療法士りがくりょうほうしになりたいのは、
オレの夢や
成也
成也
ばあちゃんたち最近
動きづらそうにしてんねん。
好きなことをするのにも、
ちょっとしんどそうや。
大和も気づいとるやろ
大和
大和
……おん
成也
成也
やから、ほんまに
理学療法士りがくりょうほうしになりたいねん。
ばあちゃんたちが好きなことを
自由にできるよう手伝いたいんや
成也
成也
ばあちゃんたちだけやなくて、
いろんな人の役に立てる仕事やし、
めちゃくちゃやりがいがあるって思っとる
葵衣
葵衣
立派な動機じゃねぇか。
それ言えば納得してくれるんじゃねぇの?
成也
成也
……せやろか
周
せいやは何が不安なの?
成也
成也
オレの夢ではあるんやけど、
押し付けにならへんか
葵衣
葵衣
押し付けぇ?
……なんで
成也
成也
ばあちゃんたちのために
何かしたいって言うのはオレの意志や。
でも、ばあちゃんたちはそれを
望んでないかもしれへんやろ
葵衣
葵衣
そんなの、話してみねぇと
わかんねぇだろ
葵衣
葵衣
どうせその思いも、
話してねぇんだろ
大和に視線を送れば、こくこくと何度も頷かれる。
こいつはどんだけ口下手なんだよ。
葵衣
葵衣
お前は言葉が足んねぇんだよ。
何時間も何日も話し合うくらいで
ちょうどいいんじゃねぇの
周
せいやのおばあさんたちなら
きっと聞いてくれるよ!
隣に座っていた和田は言葉こそないものの、
三浦の肩を小突いた。
そんな二人に背中を押されたのか、三浦は小さく頷く。
成也
成也
……せやな。
もっといっぱい、話してみるわ
そう言った三浦に、大和はどこかほっとしたような、
嬉しそうな表情を浮かべた。

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