腹を抱えて笑う和田の声を聞きながら、
俺と村宮は三浦に迫る。
じっと三浦を見つめる大和の表情は真剣で、
本気で三浦を説得したいのだとわかる。
村宮と俺は、早速行動に移していたのだった。
──
滅多に来ないカラオケで
和田とマイクの押し付け合いを繰り広げていると、
満面の笑みを浮かべた村宮が大和と共に
ソフトクリームを持ってきた。
おい、こいつも本題忘れてねぇだろうな。
村宮と和田はカラオケに集中しだすし、
三浦兄弟は茶とソフトクリームで和んでるし……。
なんなんだよもう。
普通に遊ぶだけなら俺はカラオケなんか選ばなかったのに!
話をするなら個室の方がいいって!
だからカラオケを選んだんだろうが村宮ぁ!
怒りのまま、楽しそうにタッチパネル式のリモコンを
覗き込んでいる村宮の襟を掴んだ。
わざとらしい咳を二度した村宮は、いそいそと座り直した。
その視線の先には、三浦。
直球で尋ねた村宮から視線をそらし、三浦は大和を見た。
行儀良くお茶を飲んでいた大和も、
話が始まってからはじっと三浦を見つめていた。
けど交わった視線はすぐに外される。
三浦によって。
ずっと黙って聞いていた大和が声を上げた。
大和の言葉に黙りこくってしまった三浦。
あまり表情は変わらないが、
何を考えているのかはなんとなくわかる。
言い訳か、相手を言いくるめる言葉か。
だがそうはさせねぇ!
三浦の目の前に、二枚の紙を突きつける。
それは、去年と今年の、三浦の進路調査票だった。
去年も俺たちの担任だった教師は、非常に緩い。
それで苦しめられたことも多数あったが、
今回は逆にそれを利用してやった。
けどあいつは本当にやばいと思う。
俺の勢いに便乗して、村宮が大和の肩を掴んだ。
口を挟む様子のない和田は
この刑事ごっこに腹を抱えて笑っている。
いいな。第三者は気楽で。
村宮に肩を掴まれたままの大和が言う。
三浦はデカいため息をついて頭を掻いた。
湯気の消えたお茶をじっと見つめる三浦に、
大和がたたみかける。
中学生にしてはしっかりした言葉に、
思わず村宮と目を合わせる。
これ、俺たちいらなかったのでは。
大和に視線を送れば、こくこくと何度も頷かれる。
こいつはどんだけ口下手なんだよ。
隣に座っていた和田は言葉こそないものの、
三浦の肩を小突いた。
そんな二人に背中を押されたのか、三浦は小さく頷く。
そう言った三浦に、大和はどこかほっとしたような、
嬉しそうな表情を浮かべた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!