〜翌朝〜
「お藤、起きろー?」
鶴丸の声で、藤咲国永は目を覚ます。
「んん、鶴にぃ………?」
「おう、おはよう」
鶴丸は眉を下げて優しく微笑む。
まだ何も知らない、藤咲の純粋な表情が、彼には眩しすぎた。
兄妹揃って広間に行くと、そこには既にかなりの刀剣が集まっていた。
誰一人として口を開くものはおらず、皆口を固く結んでいる。
その光景は、とても異様なものだった。
誰からも声掛けなく、皆の前に1枚の紙が置かれる。
そこには、『本日の部隊編成』と書かれており、出陣又は遠征の時刻、そしてその下に1部隊6振りの刀剣たちの名が連なっていた。
「………ちょっと待て」
誰もが口を開かない中、鶴丸が声を上げた。
「どうした。何か問題でも?」
紙を提示した張本人であるへし切長谷部は冷酷な眼差しを鶴丸へと向ける。
「昨日来たばかりのあなたが出陣、しかも池田屋とはどういうことだ」
鶴丸が指さす紙の第二部隊、と書かれたところには、加州清光(隊)、大和守安定、三日月宗近、蛍丸、薬研藤四郎と並んで、あなたの名も並んでいた。
「俺に言うな。これは全て主の指針だ」
長谷部は変わらず冷酷な眼差しで突き返す。
「まだ来たばかりの藤咲ちゃんに池田屋はきついだろうけどね………」
悩む鶴丸の横で、燭台切光忠も口を挟む。
「せめて俺と交代ってことにしてくれないか」
「主に聞いてくるとしよう」
そう言って長谷部は素早く退室してしまう。
「………というかこの編成はなんなんだ」
ボソリと鶴丸が呟く。
「確かに、大太刀や太刀を部隊に入れるなんてね。室内戦じゃあきついだろうに」
燭台切も静かに同調した。
その他の刀剣達は、気にも止めていないかの様に、さっさと朝食を取りに行ってしまった。
ただその最中も、この本丸は異様な静けさに囚われていたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!