控えめに言って全然大丈夫……ではない。
昨日はあれから一睡も出来ずに朝を迎えてしまった。朝起きたら先輩から『昨日はごめん、充電切れた』とだけメッセージが入っていたけれど。
私と電話する約束してたんだから、普通は電話かける前に充電確認しない!?とか。
あの女の人は誰!?とか。
聞きたいことも言いたいことも山ほどあるくせに、返信する気になれず……ダメだと分かりつつも既読無視してしまっている。
お昼にくれた電話も全く同じ理由で出なかった。
浮気だって決めつけてるわけじゃない。
少なくとも、私と付き合ってからの先輩は、私と正面から向き合ってくれたし……、先輩の私を想ってくれている気持ちだって、日々色んなことを通じて伝わっていた。
───だけど!!!
先輩の過去を知っている分、あれこれと良からぬことを考えてしまう。
***
───修学旅行4日目の放課後。
今日はあんなに待ち望んでいたはずの、先輩が帰ってくる日。……なのに、私の気分は全く優れない。
会いたくないといえば嘘になるけど、今、先輩に会ってどんな顔をすればいいんだろう。
教室で先輩の帰りを待つと約束していたけど、このまま会わずに帰りたい気持ちでいっぱいだ。
俯いたまま、柊佑くんの顔を見ようとしない私に、先輩はゆっくりと近づいてくる。
───ギュッ
突然、強く強く抱きしめられて、苦しさから身をよじる。
……そういえば、先輩にお姉さんがいるって、前に内海家で食事会をしたとき、オオカミママが言ってたっけ。
"不安にさせてごめん"
ギュッと私を抱きしめる先輩の腕に、肩の力が抜けていく。
……なんだ、そうだったんだ。
ひょいっと机の上に私を座らせて、首筋に顔を埋めながらワイシャツのボタンを素早く外していく。
オオカミ先輩は、どこまでもふしだらに甘く囁いて、私の思考回路を簡単に破壊する。
相変わらず"マテ"はできないけれど、こんなオオカミ先輩を手懐けられるのはきっと世界中、どこを探したって私だけ───。
【END】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。