第21話

オオカミと牧羊犬
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2022/05/22 09:00
───キス、されてしまった。

キスができるくらい近づかれたことなんて、今までだって何度もあった。

だけど、
森川 海
森川 海
……なんで、
キスなんてしたんですか
自分の部屋のベッドの中。
明日も学校だっていうのに、全然眠れない。

『誰にでも、キスするの?』
『……そうだけど?』

あの時、私はオオカミ先輩にキスされたことが嫌だったんじゃなくて、オオカミ先輩が"誰にでもキスできる"ってことが、悲しかったんだ。
***

───数日後。


教室の掃除当番だった私は、校舎横にあるゴミ置き場までやって来て絶句した。
森川 海
森川 海
……っ、
内海 柊佑
内海 柊佑
よっ
神様は、どうしてこんなにも意地悪なんだろう。

会いたい、会いたい……と思っている時は全然会えないのに。会いたくないと思っている時に限って、こんな簡単に会えてしまうなんて。
森川 海
森川 海
……お、お疲れ様です
無視するのは感じ悪いし……とりあえず挨拶しちゃったけど。

この際割り切って大人な対応をすればいい?
あんなキス、犬に噛まれたと思って忘れちゃう?

……ううん!こうなったら逃げるが勝ちだ!
ゴミ置き場にゴミ袋を半ば放り投げて、何か言いたげなオオカミ先輩の横を足早に通り過ぎる。

───でも、
森川 海
森川 海
あの、先輩……!
内海 柊佑
内海 柊佑
ん?
森川 海
森川 海
福は、元気ですか?
内海 柊佑
内海 柊佑
あぁ。すっかり母さんが
可愛がっちゃって
毎日散歩に連れてってる
森川 海
森川 海
そうですか……
良かったです
森川 海
森川 海
あの、……それから
やっぱりちゃんと聞きたい。
オオカミ先輩があの日、私にキスした理由が、

"誰にでもキスをするふしだらなオオカミ"だからだっていうなら、いっそ忘れてしまおう。

だけど、もし……あのキスに意味があるなら……。
私は、ちゃんと知りたい。
内海 柊佑
内海 柊佑
なに?
森川 海
森川 海
あの日の、キス……
あれ、
内海 柊佑
内海 柊佑
……あぁ、
またキスして欲しいわけ?
森川 海
森川 海
……ち、違っ
オオカミ先輩が、私の手首を掴む。
触れている部分が熱を持って、ジンジン体が火照っていく。振りほどきたいのに、振り解けない。

どうしてなんだろう。
先輩が近くにいると、苦しくて、切なくて、ドキドキして……なのに、離れたくないと思ってしまう。
原 蒼真
原 蒼真
海!
私を呼ぶ原くんの声にハッとして、慌ててオオカミ先輩から1歩後ずさる。
森川 海
森川 海
……は、原くん
原 蒼真
原 蒼真
ごめん!ごみ捨て、
1人じゃ重かったでしょ?
"気付いてすぐ追いかけたんだけど"と、申し訳なさそうに駆け寄ってくる原くんのおかげで、オオカミ先輩と2人きりの空間に終わりが訪れてホッとする。
森川 海
森川 海
1袋だけだったから、
1人で平気だったよ!
追いかけて来てくれてありがとう
内海 柊佑
内海 柊佑
……ほんと、
どこにでも現れる番犬だな
原 蒼真
原 蒼真
そりゃあ、大事なヒツジちゃんが
オオカミさんに食べられるのを
みすみす見逃すわけにはいきませんから
オオカミ先輩と原くんの間には一触即発の空気が流れている。

こ、これは長居しちゃいけないやつ……!
森川 海
森川 海
は、原くん……
いいから、もう行こう?
内海 柊佑
内海 柊佑
……もう、
内海 柊佑
内海 柊佑
食べたって言ったら?
森川 海
森川 海
───!!
ドキッ、と跳ね上がる心臓。
オオカミ先輩……何を言い出す気!?

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