───キス、されてしまった。
キスができるくらい近づかれたことなんて、今までだって何度もあった。
だけど、
自分の部屋のベッドの中。
明日も学校だっていうのに、全然眠れない。
『誰にでも、キスするの?』
『……そうだけど?』
あの時、私はオオカミ先輩にキスされたことが嫌だったんじゃなくて、オオカミ先輩が"誰にでもキスできる"ってことが、悲しかったんだ。
***
───数日後。
教室の掃除当番だった私は、校舎横にあるゴミ置き場までやって来て絶句した。
神様は、どうしてこんなにも意地悪なんだろう。
会いたい、会いたい……と思っている時は全然会えないのに。会いたくないと思っている時に限って、こんな簡単に会えてしまうなんて。
無視するのは感じ悪いし……とりあえず挨拶しちゃったけど。
この際割り切って大人な対応をすればいい?
あんなキス、犬に噛まれたと思って忘れちゃう?
……ううん!こうなったら逃げるが勝ちだ!
ゴミ置き場にゴミ袋を半ば放り投げて、何か言いたげなオオカミ先輩の横を足早に通り過ぎる。
───でも、
やっぱりちゃんと聞きたい。
オオカミ先輩があの日、私にキスした理由が、
"誰にでもキスをするふしだらなオオカミ"だからだっていうなら、いっそ忘れてしまおう。
だけど、もし……あのキスに意味があるなら……。
私は、ちゃんと知りたい。
オオカミ先輩が、私の手首を掴む。
触れている部分が熱を持って、ジンジン体が火照っていく。振りほどきたいのに、振り解けない。
どうしてなんだろう。
先輩が近くにいると、苦しくて、切なくて、ドキドキして……なのに、離れたくないと思ってしまう。
私を呼ぶ原くんの声にハッとして、慌ててオオカミ先輩から1歩後ずさる。
"気付いてすぐ追いかけたんだけど"と、申し訳なさそうに駆け寄ってくる原くんのおかげで、オオカミ先輩と2人きりの空間に終わりが訪れてホッとする。
オオカミ先輩と原くんの間には一触即発の空気が流れている。
こ、これは長居しちゃいけないやつ……!
ドキッ、と跳ね上がる心臓。
オオカミ先輩……何を言い出す気!?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!