ナワーブが自室に戻ると、リッパーがその長身を丸めてベッドに横たわっていた。窓から差している昼下がりの暖かなひだまりを背に受け、緩やかな寝息を立てている。
「何だ、寝てるのか」
今日のように程よく暖かい日はつい眠くなるものだが、仮面をつけたまま寝るとは余程眠かったのだろうか。
そっと仮面をずらし、口づける。唇を離すと「んー……」と声が漏れて仮面の向こうに隠れた瞳が開かれる気配がした。
「悪い、起こしたか」
「……………なわぁ…ぶ、くん……?」
声を掛けてからややあって、若干不明瞭な発音で名前を呼ばれる。
「ンー…………」
珍しい。彼がこんなにも眠気でぐずぐずになっているなんて。自分がいつも見ている彼は紳士らしくシャキッとしているので興味深くてついまじまじと見つめてしまう。
「お?」
リッパーの右手がこちらに伸びたと思ったら強い力で引き寄せられた。抗う暇もなくベッドに倒れ込むと、ぐりぐりと首元に顔を擦り付けてきた。
「ンンー……ふふ、あたたかい……」
リッパーの頭は顎の下にあるので表情は伺えないが、きっと仮面の下の唇は機嫌良さそうに弧を描いているのだろう。
「ああ…………すき、すきです……ナワーブくん」
綿菓子のようにふわふわと甘い声が甘い睦事を囁く。
ちょっと待ってくれ。そんなとろとろにとろけた声で幸せそうに言われたら、俺はどうすればいいんだ。
「や、俺も好きだが……ちょ、っと……待て、リッパー……ッ」
このままだと感情が溢れて思考が焼ききれてしまう。だから少し落ち着きたくて身を離そうとした、のだが。
「どうして、ですか……いかないでくださいよ……。愛して、くださらないんです……?」
背中に回った右手が縋るように服を掴む。
常に紳士としての矜持を貫く彼からは滅多に聞くことのない、素直なあどけない甘えた声。
もう、駄目だった。
「~~~~~~!! リッパー……!!」
「グゥゥッ!?」
激しく沸き上がる衝動に任せてリッパーの頭を抱き込めば、バシバシと背中をタップされた。
解放してやればリッパーは首をのけぞらせて深く息を吐いた。先程より動作が機敏でしっかりしている。今ので覚醒しきったようだ。
「あ、貴方ねぇ……自分の馬鹿力を自覚なさい……頭が割れるかと……」
「悪い悪い。でもリッパーだってあんな可愛いことして可愛いこと言うからさ、どうにかなりそうなんだよ」
「可愛いこと…………」
リッパーは考え込んで数秒後、先程までの自身の言動を思い出したのかボッと水蒸気が見えそうなほど耳と首を赤く染めた。かと思えば途端にわたわたと手を忙しなく動かす。
「ちっ、ちが、違います! あれは違うんです!」
「違うって何が」
「寝惚けてた、寝惚けてたんです!!」
「へえ。寝惚けてたってことは頭回ってなかったと」
「ええ、ええそうです!」
ほぉ。
ニィッ……と意地悪く口の端が吊り上がっていくのが自分でも分かった。
「じゃああれが素直なリッパーの本心ってこと」
「アッ……いや、いやそんなことは、断じて、」
両手首を掴んでシーツに縫い付けるように押し倒す。逃げられないように、しっかり体重をかけて。
リッパーは甘やかすのは上手いけれど甘え下手だ。そういうところも可愛いのだけど、ストレートに愛を請われるのはやはり格別だ。
「嬉しいぜリッパー。お望みどおりたくさん愛してやるからな」
「ヘアアァァ~~~……!?」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。