第22話

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2019/10/13 03:13
今日も、あの夢を見た。


暗闇の中、独りでいる。


でも、今日は、少し違う。


誰かが、いた。


俺は、そいつに声をかけた。
一松
一松
ねぇ
???
そいつは、ビクッとして、振り向く。
一松
一松
……え
そこにいたのは、


俺だ。
一松
一松
!よかった……!人がいた……!
そいつは、ホッとしたように呟く。
一松
一松
あの、えと、ここ、どこなんですか?
俺は、信じられなかった。


こいつは、自分がいるってのに、気づいてないのか?


毎日、鏡で見る、窓で見る、自分の顔。


それが、こいつと同じ。


そうだ、さっきの質問に、答えねば。
一松
一松
多分、夢の中じゃない?俺は、眠ると、いつも、ここへ来る
一松
一松
……!……同じです。僕も、眠ると、ずっと、ここへ来ました。でも、ある時、ずっと、ここへいるようになって……
一松
一松
え、ずっと?い、いつから?
一松
一松
いつ……えっと、なんか、分からないんですけど……ここに来る前の、最後の記憶にあるのは、鉄パイプで殴られて……
一松
一松
!?
こんなひ弱そうに見えて、喧嘩するのか!?


でも、鉄パイプって……。


俺が、気がついて、何もかも忘れていた俺に、兄弟達が教えてくれた、こうなった理由。


それが、鉄パイプに殴られたって……。
一松
一松
そうなんだ……ね、一応訊くけど、名前は?
一松
一松
山……松野一松です。あなたは?
やっぱり。
一松
一松
俺も、松野一松
一松
一松
え!え、え、え、え?
やっぱり、困惑するよなぁ。
一松
一松
ちょっと落ち着いて聞いてね
一松
一松
あ、はい
俺は、彼を座らせる。
一松
一松
記憶がなくなったこと、ある?
一松
一松
えと……大体、中学から昔の記憶がない
一松
一松
ここからは、俺の憶測なんだけど、もしかして、君は、俺の記憶がなくなる前の自分なんじゃないかって
一松
一松
君……えと……記憶、なくなったの?
俺は頷く。
一松
一松
そんな昔じゃないんだけど、気づいたら、病院。原因は、鉄パイプで殴られたからって
一松
一松
!鉄パイプ……!
その時、
一松くん
一松くん
やっと、来た……
誰かが来た。


小学生ぐらいだろうか?
一松くん
一松くん
今の僕……
一松
一松
えっと……君は?
一松くん
一松くん
君の憶測は、合ってる。僕は、松野一松だ
一松
一松
てことは、こっちの一松の、無い記憶?
その子は、頷く。
つまり、状況を整理すると、


ここには、三人の俺がいて、


一人は、産まれてから、小学生ぐらいまでの記憶がある俺。


もう一人は、そこから、鉄パイプで殴られるまでの記憶がある俺。


もう一人は、そこから、今までの記憶がある、俺。
一松くん
一松くん
ここに、今まで全ての僕がいる。だから、記憶を戻すことが、できるんだ
一松
一松
え、でき、るの?
いちばん初めに反応したのは、今まで黙っていた、俺より一つ前の俺。
一松くん
一松くん
うん、その記憶は、今の僕、君に吸収される
そう言って、俺を指さした。
一松
一松
でもそれって、その、僕、と、小学生の、僕は、消滅する、ってことでしょ?だって、ここは、記憶の世界なんだから
え、記憶の……世界?
一松くん
一松くん
……そうだよ。ここは、一松の中の、記憶の世界。僕は、記憶障害に二回もなっているんだろ?その時に、別の自分が必ず現れる。そして、そいつと自分を交換する。交換された自分は、ここに来る
へぇ。
一松
一松
ねぇ、なんで君はさ、それ知ってるの?普通なら、知らないよね
一松くん
一松くん
……それは、あとあと分かるよ。とりあえず今は、記憶をひとつにしよう。安心しな、完全に消滅されるわけじゃない。だって、今の一松に吸収されるんだから
一松
一松
そ……か
ひとつ前の俺は、どこかホッとした用だった。
一松くん
一松くん
みんなで手を繋いで、輪を作ろう
言われるままに、繋ぐ。
一松くん
一松くん
そのままゆっくり、目を閉じて――
暗かった目の前が真っ白になった。

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