第10話

十年後、あなたは…
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2019/12/24 11:32
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《叶視点》

 大きな桜の木の下にある神社。手入れを者はおらず、少し古びた感じがする。その神社の桜の木の前に私はいる。木のすぐ根元には、お墓があった。たくさんの美しい花が添えられたお墓。そこに眠るのは、私の大切な友達。十年前、私を助けて死んでしまった狐のあの子。短い間だった。けれども、あの子との思い出はたくさんある。絵を描いて、お話をして…十年経った今も、しっかりと覚えている。
 今年で私は二十五歳になった。あの後、辛いこともたくさんあった。でも、いつも心の中にいるあなたが応援してくれた。あなたがいたから私はここにいる。
叶
あなたが死んでしまったということは、この広い世界では本当にちょっとしたこと。でも、私は絶対にあなたを忘れないよ。あなたは、私の中でずっと生き続ける。この先何年も、何十年も…!だから、私からあなたへ一言言わせてね。
私は、にっこりと笑った。
叶
私を、生かしてくれてありがとう、琴羽…!
 今日は私とあなたが出会った日のような、暖かい春の風が吹く日。あなたは、あの頃のように私の隣で笑っているのだろうか。風で桜の花弁がひらひらと舞い降りてくる。私は、呟いた。

『さようなら。そしてありがとう。私の大切な友達…。』

風はさらに強くなっていく。迷子の子猫が『ニャー』と、鳴いた。

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