向かった先は5年前の事故現場だった
電柱の横にくくりつけられている小さな花瓶に買ってきたユリをさす
私より先に誰かがやってきたんだろう
花瓶は綺麗な菊やユリでいっぱいだった
お兄さんは・・・・
こんなにもたくさんの人に愛されていたんだね・・・?
5年前の事故を思い出すにつれ、言いようもない悲しみが胸の奥深くからグッとこみ上げてきて
やっぱり大吾を連れてきたのは間違いだったかも
初対面の女にそんなに重い話されたら誰だって反応に困るよね
あたしなんで初対面の大吾にこんな話してんだろう・・・。
大吾の顔を見ずにそう言うとあたしはお兄さんが倒れてたという場所を見つめてそっと両手を合わせた
ねぇ…お兄さん。
あたし朝お兄さんの夢を見たよ。
あの事故を思い出す度に苦しくてたまらないんだ。
だけど…お兄さんはあたしよりもっと苦しかったよね。
もっともっと痛かったよね
ごめんね、お兄さん。
本当に……ごめんね。
お兄さんは空の上で幸せに暮らしてる?
美味しい物いっぱい食べてる?
彼女とか、できたりした?
あたしはね、彼氏と別れたよ。
って、違うか。
あたしが勝手に彼氏だと思ってただけ。
浮気相手はあたしだったんだってさ。
ありえないよね…。
そんなこと考えてなかったんだけどな…。
ねぇ、お兄さん。
毎年一人でここに来るんだけど、今日は一人じゃないよ。
西畑大吾って言う男の子と一緒だよ。
さっき出会ったばかりだけど彼はきっと悪い人じゃない。
何故か分からないけど、そんな気がするの。
なんてね。
あたし、男見る目ないからあんまり信用出来ないけどね。
だけど、さっきあたしを助けてくれたよ。
彼が来てくれなかったら、あたし彼氏の言葉に心をズタズタに切り裂かれてた。
ちっぽけなプライドを保ってることも出来なかったかも。
お兄さん。
あたし、今日も一生懸命生きてるよ。
辛いこととか悲しいこととか悔しいこととか、超いっぱいだったよ。
嬉しいこととか楽しいこと以上にいっぱいあるんだ。
だけどね、あたし、頑張るよ。
お兄さんに救ってもらったこの命大切に守ってるよ…。
ーねくすとー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。