第8話

5年前の悪魔
49
2020/01/01 06:11
男の人
・・・・ーーー危ない!!
そんなん叫び声と同時に突然突き飛ばされる体。

あまりに突然のことに受け身なんて取れるはずもなくて。

だけどあたしが地面に倒れ込むと同時に見知らぬお兄さんが車に跳ね飛ばされた。

それは本当に一瞬のことで。

えっ……?一体何が起こったの?
幼い頃の結愛
幼い頃の結愛
いたっ……

こめかみ辺りに痛みが走って手でその部分に触れると真っ赤な血が指先につく。

事故…?事故なの……?
誰かが「救急車を呼べ!!」とか「ダメだ意識がない!!」とかそんなことを叫んでる
幼い頃の結愛
幼い頃の結愛
…お兄さん…?
脱げてしまった靴をそのままに、裸足でお兄さんに近付いていく。

だけど仰向けに倒れているお兄さんはピクリとも動かない。

頭から流れる血がアスファルトに広がっていく
男の子
男の子
…___兄ちゃん!!兄ちゃん!目を開けてよ!!

その傍にはお兄さんの弟と思われる男の子がいて。

私と同い年ぐらいの男の子はお兄さんの体を必死に揺する。

その時、ふと男の子があたしに視線を向けた。
その瞳に浮かんだ絶望の色。

そして私を刺すような冷たい視線。

それはまるで、「お前が殺したんだ」とでもいいたそうな……。


あたしが……殺したの?

あたしがこの男の子からお兄さんを奪った…?

お兄さんが私の背中を押さなければ…あたしが死んでた。

お兄さんはあたしのせいで……。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

嫌だ、嫌だよ。こんなのって…ーーー

ねぇ、あたしのせい…?

お願いだから。

お願いだからそんな目で見ないで。

あたしを…

見ないで…!!
結愛
結愛
……イヤァァァ!!!

ハッと目を覚ますとそこには見慣れた白い天井だった。

夢……か

そう気がついた時背中がびっしょりと濡れていることに気がつく。
結愛
結愛
ハァ……
あたしはゆっくりベッドから起き上がり胸に手を当て荒れた呼吸を整えた。

……5年前のあの日。

横断歩道を渡っていると事故に巻き込まれた。

見知らぬお兄さんに背中を押され地面に頭を打ち付けて意識不明の状態で病院に運ばれたあたし。

数日後目を覚ましたあたしは、あのお兄さんが無くなったことを知った。

<飲酒運転のトラック横断歩道にいた通行人を次々はねる>
<飲酒運転のトラック、横断歩道の通行人を次々はねる>
「飲酒運転のトラック横断歩道にいた通行人を次々はねる」

そんな見出しの新聞で知ったお兄さんの情報。
18歳の大学生人当たりは良く、誰にでも優しかった。

だけど、お兄さんは、あたしの代わりに死んでしまった。

あたしが死ななかった代わりにお兄さんが死んだ。

重たい体を引きずりながら学校へ行く準備をする。
今日であの事故からちょうど5年。

だからあんな夢を見たのかもしれない。

空の上にいるお兄さんが「俺のことを忘れるな」って警告しているかも。

ううん、違う。

そんなことを恩着せがましく思う人なら最初から私を助けたりなんかしない。

自分の身を危険にさらしてまで、見ず知らずの小学生を助けるわけがない。

お兄さんごめんね。

生かしてもらったのにこんな私でごめんね。

事故現場にいたと言うお兄さんの弟…は元気にしてるかな。

夢の中で鋭い瞳で睨みつける彼。

あの事故ですぐに意識を手放してしまった
あたし。

もちろん、お兄さんの弟の姿を見たことがない。

だけど夢の中で彼はあたしを憎んでる。

ううん、夢だけじゃない。


きっと彼は私を今も憎んでいるに違いない。

大切なお兄さんを殺したあたしを恨んでいるだろ。

こうやって朝日を顔に受けて目覚める事が出来るのも

お母さん特製のちょと甘めの卵焼きをたべられるのも

面倒くさいと思いながら学校に行けるのも

友達とカラオケやクラブに行けるのも

今こんなことを考えていられるのも

全部お兄さんが私を命がけで守ってくれたから。
そうじゃなかったら私は今ここにいない。

お兄さんは空の上でなにをしているの?

ご飯は美味し?

友達はもう出来た?
何をして毎日過ごしているんだろ。

お兄さんは私を助けて後悔していませんか?

私は未だに引きずってるよ…。

面と向かって助けてくれたお礼も言えないなんて。

ねぇ、お兄さん。

あたしこの5年間お兄さんを忘れたことはありません。

それがきっとお兄さんに出来る唯一の恩返しだから。

ーNEXTー

プリ小説オーディオドラマ