私は、学校の屋上から飛び降りた。
頭から真っ逆さまだ。
今更考えても遅いけど、
目を閉じて地面にぶつかるのを待った。
――ぼすっ。
何かにぶつかったというより、
誰かに受け止められた感じがする。
ゆっくりと目を開けると、
見たこと無いほど綺麗な男の子が私を見ていた。
灰色がかった髪色は狼みたい。
満月のように丸くて優しい黄金色の目をしている。
顔立ちも整っているけど、目の印象から少し童顔気味。
誰が見てもかっこいいと言うような人が、
私をお姫様抱っこしていた。
だけど、頭に狼の耳がついていて、
背中から灰色の羽のついた人なんて、見たこと無い
芝生の上に立たせて貰うと、彼と向き合う形になった。
見たこと無い男の子だし、そもそも格好が不思議だ。
彼はこちらに迫ると、ぐっと顔を近づけてくる。
鼻が触れそうな距離で、
綺麗な黄金の色の目が私を覗き込んできた。
優しそうな雰囲気はなく、
問い詰めるような真剣な目だった。
思わず顔が赤くなり、
ちょっとだけ身を引く。
毎日毎日いじめられて、
抵抗するのも疲れて、
流されるように過ごしてきた。
彼は顔を離すと、今度は笑った。
誰かに微笑みかけるような、優しい笑顔だ。
気がつけば、私は彼にいろんな事を話していた。
虐められる毎日。
先生や親に話しても、
どうにもならなかったこと。
聞かされる方は、
きっといい気分にはならない話。
彼の言う高校は、聞いたことがなかった。
でも、それはクラスの子が目指さない高校とも言えた。
彼が背中の翼を広げると、
強い風が吹き始める。
風が収まるまで目が開けられなくて、
もう一度目を開ける頃には、風と一緒に彼もいなくなっていた。
明らかに怪しい格好の男の子だった。
だけど、彼の言う高校に行けば、
今のクラスの人たちからは離れられそうだ。
月の綺麗な夜。
本当なら始まらなかったはずの青春、
その進む先が決まった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。