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第1話

自殺中の出会い
397
2018/10/19 09:16
灰島香純
もう、疲れたな……
 私は、学校の屋上から飛び降りた。
 頭から真っ逆さまだ。
灰島香純
(当たったら痛いかな?)
 今更考えても遅いけど、
 目を閉じて地面にぶつかるのを待った。
 ――ぼすっ。
灰島香純
(……痛くない?)
 何かにぶつかったというより、
 誰かに受け止められた感じがする。
狼谷信志
良かったよ、間に合って
 ゆっくりと目を開けると、
 見たこと無いほど綺麗な男の子が私を見ていた。
 灰色がかった髪色は狼みたい。
 満月のように丸くて優しい黄金色の目をしている。
 顔立ちも整っているけど、目の印象から少し童顔気味。
 誰が見てもかっこいいと言うような人が、
 私をお姫様抱っこしていた。
灰島香純
(綺麗……ん?)
 だけど、頭に狼の耳がついていて、
 背中から灰色の羽のついた人なんて、見たこと無い
灰島香純
(コスプレ? というか……浮いてる?)
狼谷信志
とりあえず、下降ろすからな
灰島香純
あ、はい……
 芝生の上に立たせて貰うと、彼と向き合う形になった。
 見たこと無い男の子だし、そもそも格好が不思議だ。
灰島香純
あの、その格好……?
狼谷信志
これ? これは山伏っていう、あー、山にこもる格好さ。それより!
 彼はこちらに迫ると、ぐっと顔を近づけてくる。
 鼻が触れそうな距離で、
 綺麗な黄金の色の目が私を覗き込んできた。
 優しそうな雰囲気はなく、
 問い詰めるような真剣な目だった。
 思わず顔が赤くなり、
 ちょっとだけ身を引く。
狼谷信志
なんであんなところから飛び降りたんだ、死ぬぞ?
灰島香純
いや、あの……
狼谷信志
死にたいのか?
灰島香純
……死にたくは、ない。でも、楽になりたかった
狼谷信志
楽に?
灰島香純
クラスにいるの、辛くて
 毎日毎日いじめられて、
 抵抗するのも疲れて、
 流されるように過ごしてきた。
灰島香純
……ごめん、何でもない
狼谷信志
頑張ったんだな、お前
灰島香純
え?
 彼は顔を離すと、今度は笑った。
 誰かに微笑みかけるような、優しい笑顔だ。
狼谷信志
嫌なのに、ずっと我慢してたんだろ?
灰島香純
そう、だけど……
狼谷信志
誰かに相談したのか?
灰島香純
してない。したら、余計辛くなるから……
狼谷信志
じゃあ、俺が聞いてやるよ
灰島香純
え?
狼谷信志
別に、ここの学生じゃないし、いいだろ?
ここで知り合ったのも、何かの縁だし
灰島香純
いいよ……聞いても楽しくないよ?
狼谷信志
それは俺が決めることさ。
まあ、話すのは無理にとは言わないけど
灰島香純
……じゃあ、言う
 気がつけば、私は彼にいろんな事を話していた。
 虐められる毎日。
 先生や親に話しても、
 どうにもならなかったこと。
 聞かされる方は、
 きっといい気分にはならない話。
灰島香純
……ね、面白くないでしょ?
狼谷信志
人間って怖いな……
でも、お前が強いってことは、良くわかった
灰島香純
強い? 私が?
狼谷信志
ああ。だって、そんな理不尽な目にあって、
今日まで頑張ってたんだろ? すごいよ、お前
灰島香純
だけど……もう疲れちゃったよ、私。
今年で卒業だけど、もう限界……
狼谷信志
……そうだ! お前、進路は?
高校は決まってるのか?
灰島香純
決まってないけど……
狼谷信志
じゃあさ、俺の通ってる高校来いよ!
灰島香純
……そこ、なんて高校?
狼谷信志
白矢高校って言うんだ。
最近は人間の生徒を募集してるし、いいヤツばっかだぜ?
彼の言う高校は、聞いたことがなかった。
でも、それはクラスの子が目指さない高校とも言えた。
灰島香純
分かんないけど……いいよ。
他の人知らなそうだし
狼谷信志
お、じゃあ俺も先生に相談してみるよ。
結構真面目に受け入れとか言ってたから、
何か助けられるかもな
灰島香純
私も、進路相談で先生に言ってみる
狼谷信志
おう。その時は後輩だな
灰島香純
じゃあよろしく、先輩
狼谷信志
あ、そういえば、お前名前は?
灰島香純
灰島香純(はいじま かすみ)
狼谷信志
俺は……そうだ、狼谷信志(おおたに しんじ)っていうんだ
じゃあ、そろそろ帰るな。明日からがんばれよ、香純!
 彼が背中の翼を広げると、
 強い風が吹き始める。
灰島香純
わっ⁉
 風が収まるまで目が開けられなくて、
 もう一度目を開ける頃には、風と一緒に彼もいなくなっていた。
灰島香純
何だったんだろ……
悪い気はしなかったけど……
 明らかに怪しい格好の男の子だった。
 だけど、彼の言う高校に行けば、
 今のクラスの人たちからは離れられそうだ。
灰島香純
目指して見ようか、白矢高校……
 月の綺麗な夜。
 本当なら始まらなかったはずの青春、
 その進む先が決まった。

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