第4話

新しい教室と冷たいクラスメイト
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2018/10/26 09:46
入学式までいろいろあったけど、
式自体はすぐに終わった。
灰島香純
(体育館……すっごい火の玉飛んでる……)
というか、退屈な話を聞いている間、
周りを見ていたら終わってたんだけど。
灰島香純
(右はろくろ首……
左は……頭だけ金魚⁉)
明らかに人ではないのがいて、
どう見てもお化け屋敷なんだけど、
流石に慣れてきた。慣れてしまった。
面倒な集会で退屈しないのはいいことだけど……。
先生のアナウンス
……では、入学式を終わりにいたします。
新入生の皆さんは、先生の指示に従い、
自分の教室へ向かってください
灰島香純
(いよいよかぁ……怖い子、いないでほしい……)
この学校はクラスが三つあって、私は一年ハ組らしい。
歩きながら、周りの子をチラリと確認する。
灰島香純
(このクラス、みんな美形だ!)
女子は女の子から見ても美人だったし、
男子もアイドルみたいにイケメンばっかり。
さっきのお化けお化けしてるような子はいなかった。
灰島香純
(あれ……?)
でも、見ているとだんだん違和感が出てきた。
灰島香純
(あの子とあの子、似てるな……というか、そっくり
 あ、あそこも……いや、多くない⁉)
よく見ると、やたら同じ顔や髪型の子が多い。
同じ人の写真をいっぱいコピーしましたみたいで、
さすがに気持ち悪い。
灰島香純
(やっぱり不気味だよ……)
なるべく顔に出さないように気をつけながら教室に入る。
鬼頭猛
よし、お前ら入学おめでとう。
俺はこのクラスの担任、鬼頭猛(きとうたける)だ
眼力のある、いかにも熱血って空気の先生が私たちの担任らしい。
ちょっと苦手かも?
鬼頭猛
まあ、なんだ。その格好疲れんだろ?
普段の姿で楽にしていいぞ
クラスメイトA
うぃーっす
クラスメイトB
結構大変だよねー
先生の言葉で教室がざわつき始める。
そして、先生の頭から角が生え始めた。
灰島香純
え? え?
気がつけば、美男美女の集まりだった教室は、
ホラー映画の楽屋裏のような状態になっていた。
灰島香純
分かっちゃいるけど、囲まれるとなんか怖い……
クラスメイトC
ねえ、あなたは戻らないの?
灰島香純
ひえ⁉ わ、私は素だから⁉
鬼頭猛
あーそうだった。お前ら、静かにしろ!
ドン! と猛先生がいつの間にか持っていた金棒で床を叩く。
大きな音に合わせてみんなが教卓に注目した。
鬼頭猛
そこにいる灰島は、この学校最初の人間の生徒だ
お前ら、人間としては先輩だから、仲良くしとけ?
クラスメイトA
おい、本物の人間だぞ……
クラスメイトC
私初めて見たかも……
クラスの視線が私に集まる。
校庭で襲われた私としては、体が強張っていく。
鬼頭猛
そうだ、この後自己紹介しようと思ってたんだよ
せっかくだし、灰島からやってくれねえか?
灰島香純
え⁉ うーんと……
この視線の中で急に言われると、
何を言い出せばいいのか分からない。
必死に言うことを探していたときだった。
???
ねえ、緊張してる?
灰島香純
え?
後ろの席から声をかけてくれたのは、
濃い藍色の髪に、やたら白い肌の男の子。
おでこにはなぜか、
風邪をひいたときに熱を冷ます冷却シートを貼っていた。
彼は私に向かって手を差し出してきた。
???
手、触ってみて
灰島香純
はい?
???
いいからいいから
灰島香純
うん……? わ、冷た⁉
???
緊張してるときは冷やした方がいいって聞いたけど、
違った?
灰島香純
どうだろ……聞いたこと無いけど……
???
でも、落ち着きはしたでしょ?
灰島香純
いや、びっくりしたよ……
???
でも、さっきみたいに固まってない
灰島香純
あ……ほんとだ
???
じゃあ、自己紹介よろしくね。その次僕だから
灰島香純
う、うん。
えっと、灰島香澄です。
えーっと……人間だけど、よろしくおねがいします……?
鬼頭猛
他になんかねえのか? 好きなこととか
灰島香純
あ、そうですね……
好きなことは、知らない場所を散歩することです
オブラートに包んだけど、
本当は人気のない所巡りをするのがマイブームだった。
クラスメイトから逃げてきた名残だけど、
人気の無さそうな場所を見つけるのが得意になっていた。
誇れた特技では無いのが悲しいけど。
鬼頭猛
よし、じゃあ次。氷室
氷室正雪
はーい。氷室正雪(ひむろまさゆき)です。
世間では雪女だけど男でーす。
好きなのはアイス全般、でもあずきバーは豆っぽくて嫌いかな
よろしくおねがいしまーす
灰島香純
(あ、だから冷たいんだ……)
鬼頭猛
よし、じゃあ次のやつー
氷室正雪
そういうことで、よろしくね灰島さん
灰島香純
あ、うん。こちらこそ……
それと、さっきはありがとう
氷室正雪
いいのいいの、僕も灰島さんに興味あるし
灰島香純
私に……⁉
この人も私を食べようとか言いだすんじゃ……。
それとも他にも何かあるんだろうか?
氷室正雪
人間、珍しいからね。見てるだけで面白そうじゃん?
灰島香純
あ、そ、そうだよね……珍しいもんね、あはは……
彼はにこにこしながらこっちを見ている。
とりあえず話せそうな人ができたでいいんだろうか?

自己紹介から進むオリエンテーションの中、
彼のおかげで冷静になれた私は、
他にも話かけやすそうな妖怪を探すことに集中することにした。

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