クラスでのオリエンテーションが終わり、
担任の鬼頭先生が号令を出す。
――バキッ、ゴキゴキ!
教室中から骨を折るようなえげつない音が聞こえる。
先生も生徒も、妖怪たちはみんな着席ではなく、
自分たちの姿を人に変え始めていた。
首の長い子や角の生えている程度の人なら、
引っ込めていくだけでいい。
ただの骨だったり、毛むくじゃらだったり、
人じゃない姿の子が人になっていくのは、
音がグロテスクなのもあって、やっぱり怖い。
そんな中、特に大きく姿が変わらない人もいる。
最初から人の姿でもある、雪男の氷室君だ。
彼は気持ち悪い音をたてて変身したりはしない。
でも顔立ちは整ってるのに、やたら肌は白いし、
熱を出した人が使う冷却シートをずっと貼っている。
しかも、おでこ以外に頬とか手首とか、
肌の出る部分のほとんどに貼っている。
今まで無理やりそういうのに入れられたことはあったけど、
先生から言われるとは思わなかった。
きっと彼に悪気は無いと思うけど、
人が側にいるというのが落ち着かなかった。
視線が気になってゾワゾワする。
先生の言うとおりに教室を出ると、
すぐに『生徒会室』と書かれた部屋を見つけた。
教室に入ると、
信志先輩が羽を畳んで長椅子に座っていた。
そして隣に座る、顔も隠れるほどの長い黒髪の女の子。
でも私は、その前髪で隠れた顔に、
糸で縫い付けられた頬まで避ける口があるのを知っている。
今朝、校庭で私を食べようとした妖怪だったから。
先輩は笑って言うが、怖いものは怖い。
多少先輩に近づきつつ、女の子と向き合う。
困ったように先輩と私を交互に見ている。
校庭で会ったときは別人みたい。
やがて決心がついたのか、
前髪を寄せて、私にも赤い目が見えるように向き直った。
最初に会ったときから、消えそうな声で話をしていたが、
今の女の子は、もっと悲しそうに話をしていた。
きっと心から謝っているんだというのは、私にもわかる。
中学生だった昨日までの事を思い出す。
誰も私の言葉なんか聞いてくれなくて、
何をしても受け入れてもらえなかった。
私をいじめてきた人たちと同じにはなりたくない。
そのために、みんなとは違う高校に入学したんだから。
この子は私を襲ってきた怖い子だけど、
私が認めないと、二度と直せるチャンスは来ない。
それは、とても辛いことだから。
プツ、プツ、と崎口さんの口を縫い付ける糸がちぎれていく。
彼女は頬までパックリ口を開けて笑った。
やっぱり怖いけど、さっきよりずっと可愛らしい。
場の空気が明るくなったところで、
一人知らない声が聞こえたほうを向くと、
そこには大きな男の人の顔が壁に現れていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!