第6話

ステーキと思われていた私
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2018/11/09 14:03
灰島香純
何あれ⁉
氷室正雪
おおー顔だねぇ
生徒会室の壁には、巨大な顔ができていた。
しかもメガネまできっちりかけている。
氷室正雪
会長、入学式の片付け終わったのか?
???
まだだよ、でも時間だから一回こっちに来たんだ
あ、この格好じゃ驚くよね、ちょっと失礼……
そう言うと壁についた顔が引っ込む。
それから壁が水面のように波打つと、
徐々に人の形に盛り上がっていく。
崎口美麗
なんか、すごそう……
灰島香純
なんか驚きっぱなしだよ、私……
人の形をしたものは、やがて白夜高校の制服を来た男の人になった。
顔は壁に張り付いていたのと同じだけど、
いまよく見ると、黒い髪は耳や眉がちゃんと出るくらいの長さで、
縁無しのメガネ越しに見えるキリッとした目が、
ちょっと硬い印象を受ける。
陽彩壁真樹夫
はじめまして。生徒会長で『ぬりかべ』の陽彩壁真樹夫(ひさかべまきお)です
君が人間の新入生であってますか?
灰島香純
はい、一年の灰島香純です。先生に言われて来たんですけど……
陽彩壁真樹夫
そうそう、その話をしようと思ったんだけど……
崎口さんを呼ぶのは聞いてたけど、君は?
氷室正雪
雪男の氷室でーす。灰島さんのクラスメートでーす
陽彩壁真樹夫
なるほど。どうも、陽彩壁です。すごいね、もう妖怪の友達ができたんだ
灰島香純
ええと、まあ、ありがたいことに……
陽彩壁真樹夫
なら、今の所は崎口さん以外に襲われたりとかはしてない?
灰島香純
は、はい……
崎口美麗
ごめん……
灰島香純
あ、もう気にしてないから……
うつむいてしまった崎口さんを見て、
信志先輩は会長に講義の目を向ける。
狼谷信志
ちょっと会長?
陽彩壁真樹夫
ああ、申し訳ない! 崎口さんを悪く言うつもりは無いんだ
ただ、これから話すことと関係があって……
灰島香純
そうだった、私、生徒会に入れって聞いたんですけど……
陽彩壁真樹夫
うん、二つほど理由があって、灰島さんには生徒会に入って欲しいんだ。
まず一つ目、僕たち生徒会が、君の学校生活をサポートして欲しいと先生たちから連絡があったんだ
灰島香純
サポート? 妖怪用の授業とか、そういうのですか?
狼谷信志
いや、今朝みたいに、他の妖怪に襲われないようにだな
まあ、崎口さんみたいに聞き分けの良いやつもいるけど、
他にも、お前を狙うようなやつはいるってことさ
陽彩壁真樹夫
そういうこと。古来から人を食べる妖怪は少なくないからね
この学校では、人を襲わないように我慢する、
というのができると判断された妖怪が基本的に入学してくるんだけど……
陽彩壁会長の表情が険しくなる。
陽彩壁真樹夫
当然、全員が完璧ってわけでもないし、未だに抑える授業だってあるくらいだ
だから、今朝の信志君みたいに、誰かが君についていたほうが良いってこと
狼谷信志
生徒会は、学校でも特に人間の生活や決まりを理解できるやつしかなれないからな
そういう意味では、ここは安全なんだよ
灰島香純
そうなんだ……妖怪も大変だな……
お化けに学校はないみたいな歌があった気がするけど、
実際はそんなことは無いのかもしれない。
陽彩壁真樹夫
ということで、君のサポートをするのが一つ。
で、もう一つが君の体質だ
灰島香純
体質? 私アレルギーとか持ってないですよ?
陽彩壁真樹夫
そうじゃない。霊感が強いとか、聞いたことあるだろ?
君、誰かから霊感が強いとか、言われたことないかい?
灰島香純
あ、そう言えばありますね……私が入ると写真がいっつも変に……
実際私が中学の時に悪目立ちした原因の一つに、
入学式の時に撮った写真が心霊写真になってしまったことがあった。
私のところだけ、足や手が不自然に写って無かった事がある。
他にも私が入る写真は、いつも変な写り方をすることが多かった。
灰島香純
(あれ、本当に心霊写真だったんだ……)
陽彩壁真樹夫
僕たちからすると、君の気配はかなり強いんだ
霊感が強い人に、僕たち妖怪は惹かれやすい
狼谷信志
香純と初めて会ったときも、
やたら気配の大きな人間がいるなーって思って向かってみたからだしな
灰島香純
そうだったんだ……霊感強くて得したの初めてかも
じゃあ、崎口さんもそれで?
崎口美麗
うん……怒らないで聞いてほしいんだけど……
灰島香純
うん?
崎口美麗
初めて見たとき……高級ステーキみたいな雰囲気があった……
灰島香純
そ、そうなんだ……
(どんな雰囲気なんだろう……?)
氷室正雪
道理でなんか気になるわけだなぁ。
灰島さんだったら、僕吹雪の中でも分かりそうだもん
灰島香純
私そんなにステーキみたいなの⁉
陽彩壁真樹夫
それは分からないけど……まあ、とにかく、君はどうしても目立ってしまうんだ。
だから、そういう意味でも、僕たちの届く所に居て欲しいんだ
狼谷信志
なんかあっても、すぐに駆けつけられるしな
灰島香純
分かりました、よろしくおねがいします……
流石にそんなに言われたら、素直に従っていたほうが良いんだろう。
何かあっても、ここにいれば信志先輩に頼ればいい。
陽彩壁真樹夫
他の人達は、後で会うときにでも挨拶すればいいよ
そろそろ寮生は集まる時間じゃない?
灰島香純
あ、本当だ……じゃあ、私はそろそろ
狼谷信志
あ、俺案内するよ。俺も寮だからな
氷室正雪
じゃあ、僕もついでにお願いしまーす
崎口美麗
私も……
灰島香純
じゃあみんなで行こうか
先輩、お願いします
狼谷信志
あいよ。じゃあついてこいよー
いろいろと大事な話を聞いたところで、
私は寮へと向かう。
いろいろあったから、そろそろ休めるといいなぁ……。

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