うん。おやすみ。
電話口で告げる優しいその声は
私の鼓膜に柔らかく響いていく。
少し寂しそうな声。
そんな声がまた寂しさを増強させる。
会いたい気持ちも膨らんでいく。
次の日の学校でまた彼と
おはようと挨拶を交わす。
そんな日常がとても幸せだった。
プラグを繋いでアイロンを温めて
ぴょこんと跳ねた彼の髪に熱を通していく。
跳ねていた髪は落ち着いて毛流れに沿って収まっている
次にそのまま自分の前髪に熱を通して
毛先を巻いていく。
その様子を横からじっと見つめられる。
くるんっと巻かれた毛先を少しだけ指でほぐし、
毛流れを整える。
そして彼の方を向き、わざとらしく尋ねた。
少し拗ねたようにそう返す私に
優しく口付けをして自分の席に戻っていく。
一瞬にして顔に熱が集中していく。
小さくつぶやく声は彼には届かなくて
朝の柔らかい日差しに照らされた彼の髪が
光を受けて茶色に輝く。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。