バレンタインも終わり、ホワイトデーが近づいてきた。
バレンタインは定期テストと重なっていて
作る余裕もなかった。
だからこそ豪華にして彼に喜んでもらいたい。
たくさん買ったチョコレート。
チョコペンもカラースプレーも。
買ってきた材料を見る度に
彼が喜ぶ顔が目に浮かんでワクワクしてくる。
そして渡す当日。
私はこっそりバレー部が練習する体育館へと来ていた。
そこで見つけた彼の姿。
気持ちのさそうに片割れとバレーをしている。
汗を輝かせながらコートの中を自由自在に動き回り
目を光らせてボールを追っていく。
そんな彼の姿に惚れたのだ。
そういってこちらに走ってくる。
見つかってしまった、邪魔してしまったと
あわあわしていた。
そういって指さされたのは目の前にいる彼のために
頑張って作った遅めのバレンタインチョコ。
せっかく声掛けてくれたのに
どうぞの一言も言えない自分が嫌になった。
相手にも認知されてないのに…
遠くから見てるだけのファンの私なんて
彼にとっては眼中にすらない。
その事実を突きつけられるようで心が痛かった。
いきなりチョコ作ってきてそりゃ迷惑か…
片割れとは違って少し薄い反応。
ほんとに美味しいと思ってくれてるのかな…
あっという間に胃の中に入れてしまった。
口の端にチョコレートを付けて満足そうに笑う。
そんな愛おしい彼を間近で見られるだけで幸せだった。
想いは伝えずにそっと胸にしまい、
これでまずは1歩。と思いながら
いつか伝えられたらと願う。
そう言って強引に手を引いて体育館の中に入れられる。
靴を揃えることさえも許されず、脱ぎっぱなしにして
乱雑に転がっていく。
ニヤッと口角を上げて体育倉庫へと歩いていく。
好きバレしたならしょうがない。
彼に振り向いて貰えるように頑張ろう。
そう思ってマネージャーとしてこの部活に入った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!