第46話

遅めのバレンタイン(宮 治)
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2022/03/17 11:18
バレンタインも終わり、ホワイトデーが近づいてきた。

バレンタインは定期テストと重なっていて

作る余裕もなかった。

だからこそ豪華にして彼に喜んでもらいたい。

たくさん買ったチョコレート。

チョコペンもカラースプレーも。

買ってきた材料を見る度に

彼が喜ぶ顔が目に浮かんでワクワクしてくる。
あなた

喜んでくれるといいな…

そして渡す当日。

私はこっそりバレー部が練習する体育館へと来ていた。

そこで見つけた彼の姿。

気持ちのさそうに片割れとバレーをしている。

汗を輝かせながらコートの中を自由自在に動き回り

目を光らせてボールを追っていく。

そんな彼の姿に惚れたのだ。
宮 侑
サム、あの子、また来てんで。
宮 治
あ?ほんまや。
休憩中やし、ちょっと行ってくるわ。
そういってこちらに走ってくる。

見つかってしまった、邪魔してしまったと

あわあわしていた。
宮 治
どしたん?
あなた

えっ…あ、いやっ…そのっ…
た、ただっ…けけ見学してただけですっ…
すみませんっ…邪魔でしたよねっ…
帰りますっ…失礼しますっ…

宮 治
いや、邪魔とかなんも言うてへんやん。
なんか用あるんかと思って声掛けてんのに
てか、その手に持っとるん、何?
誰かにそれ渡しに来たんちゃうん?
そういって指さされたのは目の前にいる彼のために

頑張って作った遅めのバレンタインチョコ。

せっかく声掛けてくれたのに

どうぞの一言も言えない自分が嫌になった。
宮 治
俺…練習戻るけど…
あなた

あ…ごめんなさい…
私なんかに貰うチョコなんて
嬉しくないですよね…

宮 治
え?
相手にも認知されてないのに…

遠くから見てるだけのファンの私なんて

彼にとっては眼中にすらない。

その事実を突きつけられるようで心が痛かった。

いきなりチョコ作ってきてそりゃ迷惑か…
宮 治
俺のために作ってきてくれたん?
あなた

え…

宮 治
いや、それ。俺のチョコなんやろ?
バレンタイン。だいぶ遅いけどな。
宮 治
休憩中やし、今、1個食ってええ?
あなた

え、あ、はい…

宮 治
ん、んまいやん。
これ、ほんまに作ったん?
片割れとは違って少し薄い反応。

ほんとに美味しいと思ってくれてるのかな…
あなた

一応…

宮 治
なんでそんな自信なさげやねんて。
自信持ちや。店出せるで。
あっという間に胃の中に入れてしまった。

口の端にチョコレートを付けて満足そうに笑う。

そんな愛おしい彼を間近で見られるだけで幸せだった。

想いは伝えずにそっと胸にしまい、

これでまずは1歩。と思いながら

いつか伝えられたらと願う。
宮 治
そろそろ練習始まるから戻るわ。
チョコ、ありがとう。
あなた

あ、いえっ…

宮 治
あ、1年生やんな?
部活なんかやってんの?
あなた

いえっ…私、運動とか苦手でっ…

宮 治
じゃあうちのマネージャーやりぃや。
あなた

へっ?!
ま、マネージャーっ?!

宮 治
おん。北さん、歓迎してくれんで。
もちろん、みんなも。入りや。
あなた

で、で、でもっ…私なんかがっ…

宮 治
ええから!ほら!!
あなた

え、あ、ちょっと!

そう言って強引に手を引いて体育館の中に入れられる。

靴を揃えることさえも許されず、脱ぎっぱなしにして

乱雑に転がっていく。
宮 治
北さん、マネージャー希望の子です。
北 信介
ほんまか?
あなた

え、あ、えっと…1年の夢川ですっ…

北 信介
ほぉ、そうか。またなんでうちに…
宮 治
俺が強引に連れてきました。
北 信介
は?
あなた

え?

宮 治
多分やけど、この子、俺のこと好きなんで。
あなた

?!?!?!?!?!?!?!

北 信介
そうか…まぁ…ええわ。
マネージャー、やった事ある?
あなた

ぜ、全然っ…

北 信介
そうか、じゃあ治に教えてもらい。
じゃあ練習始めんで。
あなた

な、なんでっ…知ってるの…

宮 治
わかりやすすぎるやろ。
そっちいった時あからさまに
動揺しとったし、俺がが美味いって
チョコ食った時、にやにやしながら
見つめられてんから。
そりゃ好きバレするわ。
あなた

私ってそんなわかりやすいですか…?

宮 治
おん。答え、顔に書いとるようなもんやで
ニヤッと口角を上げて体育倉庫へと歩いていく。

好きバレしたならしょうがない。

彼に振り向いて貰えるように頑張ろう。

そう思ってマネージャーとしてこの部活に入った。

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