ガヤガヤと騒がしい昇降口。
今日は早帰りだからかドア付近に人がごった返している。
「美恋菜っ‼︎」と可愛いらしく手を振って私を待っていてくれたのは、親友の末永晴美。
元気よくドアを飛び出して晴美の元へと駆け寄る。
「晴美ぃー‼︎ いやー、もう終わったよ!」
午前中で授業が終わった嬉しさからか、つい大声を出してしまう。
すると晴美がワクワクした様子で問いかけてきた。
「ねぇ、それより美恋菜。今年はどうする?バレンタイン!」
…バ、レ、ン、タ、イ、ン。
バレン、タイン。
あぁ!そうだった!バレンタインだ!
アイツの塩対応のせいで見事に忘れてたっつーの。全くもう。
「バレンタイン!そうだった!どーしよっかなぁ…。」正直玲於とのバレンタインは、あまりいい思い出がない。バレンタインの時に砂糖だったのは、多分小学校5年生が最後。
それでも、玲於にだけは手作りしてあげたい。
…それは、単純な話。
私が…玲於を好きだから。
玲於に今年こそは甘々になってほしいから。
「ちょい!美恋菜!大丈夫?」
晴美が不安げな表情をして私の顔を覗いてくる。玲於との思い出に浸りすぎたみたい。
私は思わず頰を真っ赤に染めて大袈裟に頷いた。
「玲於でしょ⁉︎ 今、玲於のこと考えてた⁉︎」
目をキラキラと輝かせて興味津々に詰め寄ってくる晴美。なんでこう、すぐ顔にでるんだろう。でも、晴美の目は欺けない。
もうここは素直に認めるしかない。
「う、ん…。」
私が俯きがちに応えると、晴美はこれでもかと言うくらいニヤニヤしていて、隣でキャーキャー騒いでいる。
「今年はなってくれるといいね!砂糖に…って、バレンタインだからチョコか。」
晴美は一人でうんうんと頷き終始納得している様子。
うん。チョコってのもなかなかいいかも。
「まぁ…。なってくれることなんてあるのかなぁー。」
期待なんて全くしてない。
あんな玲於が。ましてや思春期真っ只中の今、急にチョコのように甘々になるなんて。
落ち込んでいる私を見て、晴美は笑顔で言ってくれた。
「大丈夫‼︎ ウチがなんでも協力するから!もうあまり時間もないんだし、インフルエンザになんかなってらんないんだからね!」
本当、晴美の言葉に今まで何度救われたことだろう。
「そうだよね! できる限りのことはしないとね!」手に握りこぶしを作って燃えるように意気込んだ。
晴美とはその後もしばらく話して、いつもの別れ道で別れた。
晴美といると本当に楽しい。
嫌なことも、全部忘れられた。
玲於は誰と帰ったんだろう。
確か同じクラスの片寄くん…と帰るって言ってたっけ。
いつも隣にいる影がいないから寂しい。
いつからこんなにも玲於に惚れ込んでしまったのかな。
塩だろうと、砂糖だろうと。
いつも私の頭の中には玲於がいて。
朝の言い争いも、可愛いげのない言葉を言ってしまうのも、私自身が素直になれないだけ。
ねぇ、玲於。
今年のバレンタイン、何食べたい?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。