体が全部水の中に入ると
あっという間に身体が流されるのが分かる
サキ「…っ?!」
獅音「サキ!!」
水の中だからだろう、獅音の声が遠く聞こえる
けれど、すぐ私の右手を獅音が掴んだ
思いっきり引っ張られて水上に顔が出る
サキ「っ、げほっ…ごほっ……ッッ」
獅音「大丈夫か?!」
サキ「だ、じょぶ……」
獅音「まずい……早く進まないと鬼に見つかっちゃう」
獅音「歩くスピードを上げるけど、絶対に手を離さないで」
サキ「うん」
10分ほど進むと、またあの水音が聞こえた
鬼だ、鬼が船をまた漕ぎ始めている
獅音「……潜るよ」
サキ「うん」
鼻を抑えて、目一杯の空気を吸い込んで
頭まで瑠璃色の水に浸かる
段々と波が近づいてきた
鬼の乗る船だろう
そのままじっと船が過ぎるまで待つ
どのくらい待っただろう
船はまだ微かに波が立っているから少し遠くであるが
油断はできない
恐らく40秒ぐらいだろうが、体感では5分だ
ゆっくりと、頭を上げた
サキ「ぷはっ……」
獅音「はぁ……」
獅音「通り過ぎたね」
サキ「そうだね……良かった」
獅音「もうすぐのはずだから、あと少し頑張ろう」
サキ「うん」
相変わらず、耳元で番人が誘惑の言葉を囁いていた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。