体力が底を突くのが先か、向こう岸へ着くのが先か
これは一種の我慢比べだった
疲れ果てた身体に鞭を打って流れに逆らい足を進める
あと少し、何度そう自分に暗示をかけたことか
サキ「あっ……あれ」
獅音「岸だ……」
サキ「やった……!!」
獅音「まだ油断はできないよ、川の中だし」
サキ「そっか……」
獅音「そうだ、名前覚えてる?」
サキ「うん、私はサキ」
獅音「俺は、獅音」
サキ「大丈夫そうだね、良かった」
獅音「うん」
サキ「さーて、あともうひと踏ん張り!」
サキ「頑張りますか!」
目の前にある岸は近くて遠かった
けれども、必死の思いでやっとついた
名前を忘れずに、2人で
サキ「やったね……」
獅音「そうだね……」
疲弊でどうにかなりそうな身体を褒め讃えたい
もう番人の声は聞こえないし
川に足を取られることも
鬼に見つかるかもと怯えることもない
この知識をくれたお婆さんには感謝しかない
サキ「ねぇ、ここからはどうやって帰るんだろ」
獅音「さぁ……」
ケーンと狐の鳴き声が聞こえた
その瞬間辺りは物凄い風に吹かれた
咄嗟のことで目を瞑る
なぜここで狐の鳴き声が聞こえたんだろう
サキ「……((パチッ」
ゆっくりと、目を開ける
そこに居たのは
美しい白銀の毛並みを持つ大きな狐だった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。