タッタッタッタッ…
行きたくはなくても、至急と言われてしまえば仕方がない。
そう自分に言い聞かせ、僕は病院内を小走りで移動した。
周りからのジロジロと見られる視線も嫌だったが、こんなの僕にとっては"普通"の事だった。
「第1話し合い室」と書かれた扉の先では、何故か聞き覚えのある様な声が聞こえた。
あの狂気に満ちた声…
本当に嫌な予感しかしない…。
そして僕はドアノブに手をかけた。
瞬間、その場が静まり返った。
僕も思わず凍りついてしまった。
僕がそうなる理由なんて、誰もが分かっただろう
だって…
その場には、数人の医者らしき人と僕の亡くなったはずのお母さんが居たのだ。
あの時の全ての記憶が蘇る。
足元を見ればいつも血の水溜まり、体を見れば傷だらけのボロボロの体、お母さんは狂っていて、学校では…この無笑病のせいで散々虐められた。
きっとまた殴なれる…
殴られて、蹴られて、時にはナイフを使ってくるだろう…
そしたらまた僕は……………
そうだよ…そうなんだよ、
僕が生きているからこうなるんだ。
僕が居なければ、お母さんがおかしくなる事はなかった、虐めだって起きなかった、僕が生きていなければ体が傷つく事もなかった。
全てはこの僕が悪いんだ…
僕は、ポケットから携帯用ナイフを取り出した。
今までずっとそう思ってきた。
僕が楽に死ぬには、これしか無かった。
これが本当の本心。
その時には、僕に理性なんて物は無かった。
その時、僕の目の前には彼が現れた。
もう一度生きてみよう、そう思わせてくれた人物。
そう言って彼は、最初出会った頃の様に優しく頭を撫でてくれる…
そして僕は安心して眠りに着いてしまった。
何かは分からないけど、僕の顔に何か、雫の様なものが落ちた気がする。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。