生まれた頃から地下街にいた。
太陽なんて、見たこと無かった。
母は娼婦だった。
私を愛してくれていた。
. .
本物の父は知らなかった。
私の義父は、
ケニーと言った。
たまに家に帰ってきて、母と3人で一緒に食事をとったりするだけだった。
それでも、ケニーがすきだった。
その日はお義父さんが帰ってくる日だった。
お母さんと2人で、お義父さんを待っていた。
コンコン
硬い、ドアをノックする音が聞こえた。
お義父さんじゃない。
お義父さんは、ノックなんてしない。
思っていることは、母も同じだった様だ。
母の指示で、隠し倉庫に静かに入った。
母はドアを開けた。
挨拶をする男。
やけに丁寧な挨拶だった。
グチャッ、
と、血の飛び散る音がした。
切りつけられたのは母だった。
あの時の借りって?
戸惑いと、
恐怖と怒り。
私も切りつけるつもりなんだ。
グサェッ
と肉を刺すような音がした。
母が刺されたんだ。
男達は、金品を奪って出ていった。
出ていったのを確認すると、
隠し倉庫から出て、母の方に向かった。
嗚呼...どうしても世界は
こんなにも残酷なのだろう。
醜くて、惨い。
絶対に、何かが、
人の幸せを奪ってしまう。
嫌いだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!