夢を見る
とも視点
どこまでも続く、その道を辿る。
不自然なくらい青い空、緑の草原。
一歩一歩踏み締めて、前へ進んでみる。
その先にはうっすらと虹。
目線を下にすれば『人』がいる。
よく見れば、その人たちは笑っている。
ずっと俺が見たかった景色。
心の底から笑っている『誰か』。
楽しそうに、嬉しそうに、
こっちを見ている。
でも…俺はそっちは行けなかった。
見えない壁がある。
距離が自然に開く。
遠くから見ることしか…できない。
サクサク…
誰かが歩いてくる。
いや、誰かじゃない…全員だ。
全員が俺の方を向く。
お、想い…?
なんだそれ…って聞く前に、
ソーラたちは目の前から消えていた。
瞬きひとつした時にはもう俺だけ。
なんで…って疑問を抱く前に、
いつしか緑は消えて真っ暗闇へ突き落とされた。
底の見えない暗闇。
とてつもない恐怖。
でも…あまり焦りはしなかった。
なぜなら…
真っ暗なのに、走馬灯のような映像が次々流れていくから。
それは…なんだか温かくて優しいもの。
その正体はわからない。
だけど、とても心地が良かった。
見渡す限り、『?』でいっぱい。
『?』は俺の原動力になりそうだな〜。
俺の『?』ってなんだろうか。
鳥ちゃんもソーラも離れにいたメンバーも、みんな悲しい顔をしてた。
鬱先生が涙を流していたのを聞いてしまった。
あれ?何か自然と返答できる…
笑いあったあの日…。
鳥ちゃんとクミさんが笑い合ってて…
アイクさんとwatoさんは幸せそうで…
ちゃみんやソーラ、バステンさんは相変わらず楽しそうで…(黒笑も)
そこに、俺もいた…。
俺も一緒に笑ってた…んだ…。
この感じは…なんだ…?
何もわからない。なのに…
あたたかい。
この『記憶』は…いつのものだ…?
俺は…何をしてた…
俺は…誰といた…
俺は目を覚ました。
今のは何だ…夢…だったのか…?
何かが流れてくる感覚…。
懐かしくて温かい『なにか』。
見渡せば、あたりは真っ暗で、
俺は寝かされていた。
無機質な空間に俺。
それから離れにぺんちゃん。
反対にはクミがいる。
あと2つベッドがあるっぽいけど…
誰かはわからない。
そして、俺の姿。
俺は入院してるんだ。
腕にはさっきまで管が繋がれていた痕があり、入院時に着るような服を着ている。
身動きは取れる。
だから、ベッドから降りてぺんちゃんの方へと歩いて行った。
夢の中で呼んでくれた人に…
ぺんちゃんは傷が深い。
いろんなところに包帯が巻かれている。
中でも目立つのは首に巻かれてる包帯。
寝返りを打ってるから少し取れかかってる。
包帯から覗くのは痛々しい切り傷。
鎌で思い切り斬られたかのような痕があった。
ぺんちゃんの方に来てわかった。
あとの2人はアイクさんとwatoさんだ。
でも…何でこの3人が…
頭が…痛い…。
割れるような…熱が出てる時みたいな…
痛みに耐えられなくて…
俺はその場に座り込む。
ぺんちゃんのベッドから手が離せなくて…
平衡感覚もない。
周りが真っ暗で何も見えない。
そしてそのまま、
意識を手放さざるを得なかった。
外出許可
クミ視点
また朝日の前に目が覚めたみたい。
昨日は無理言って外出許可をもらったから…ちょっと疲れが出たみたい。
それはまぁ、アイクさんとwatoさんも一緒だからねw
今日は…何をするんだろうか…。
学校にもずっと行ってない。
早く…あの日常に戻りたいなぁ…
私はベッドから起き上がる。
そして、すぐ異変に気づいた。
向かいで寝ているはずのともがいなかった。
と同時に気がついたのは、
私の隣に赤い髪が見えること。
ガタッ…
すぐにベッドから降りてその正体に近づく。
意識はある。
座り込んでるけど、
私のことを見ていないけど、
声で認識できてる。
夢を見た…。
しかもその夢は…ともが今持ってない記憶…
私が覚えてるものと合う。
とももそうなんだ。
無意識のうちに、
探って手を伸ばそうとしてるんだ。
ともはここで初めて顔を上げた。
クマができてる。
編集しすぎて倒れた時みたいな時を彷彿とさせるような…
私が起きるずっと前からこんな状態だったことがうかがえる。
私はともの隣に座り込んで話す。
ともが好きな話をする。
私が歌わない理由。
文化祭で歌えなかった理由。
それは昔、いじめられたから。
ソーラさん…当時の沙月ちゃんと同級生の時に…。
女子なのに歌で高い音が出せなくて…
先生を困らせて、周りにバカにされた。
『女の子なのにどうして?』って…
まだ声変わりもない歳。
私はそこらの男子よりも声が低かった。
それからだな。
私が『女の子っぽく』振る舞わなくなったのも、可愛いものから離れたのも。
それから、友達を作らなくなったのも。
ソーラだけ、近くにいてくれた。
そのあと、私を庇ってくれた時も…私は声が出せなかった。
だからソーラが今度は困ってしまった。
私はそれを知る前に転校してしまったから…
申し訳ないことをした。
謝っても謝りきれない。
それから間も無くして、私はあかがみんになったけど、声は出さなかった。
それは、このことがあったから。
…でも、あの頃とは違う。
また一歩、みんなみたいに踏み出さなきゃ…
昨日は私とアイクさんとwatoさんと。
今日はともと私が。
また、夜明け前に語り合う。
心のモヤモヤ
とも視点
クミは珍しくいろんな話をしてくれる。
クミさんが話してくれた日のこと。
秋晴れの清々しい青空が広がって、
広場には円を描くように草木が生えて、
青と緑に映えるように虹が出ていて…
『あかがみんの絆の力ですよ!』
あれ…?わかんなくなってきた…。
『あかがみん』って何だ…。
仲間って誰のことなんだ…。
わかりそうでわからない…!
なんだ…このモヤモヤは…。
何か…気持ち悪い…。
ずっと喉に突っかかってる。
あと少しで何かわかりそうなのに…。
あかがみん…。
まだ…ピンときてない…。
何でこんなに…。
そういうとクミは立ち上がって俺の手を取ろうとする。
何かを彷彿とさせるクミの手。
これは紛れもなく『仲間』が差し出してくれた手と同じだ。
あかがみんを作った時、
俺が引っ張ってきた手は…
いつしかみんなに引っ張ってもらってた。
文化祭のステージに出るときの手。
ショッピングモールで取り合った手。
また立ち向かった時に取った手。
そして、俺が絶望に打ちひしがれてる時に差し出してくれた手。
今のクミの手は…
暗闇から俺を引っ張り出してくれる時の手だ。
そしてその先には…
虹が広がっている。
裸足で病室を出る。
時刻はまだ7:00。
当たり前だけど人は少ない。
だけど、そこに知ってる影があるか…どうしても探してしまう。
早く伝えたいんだ!
俺の想いを…!
夢で言われた『本当の想い』を…
俺は見つけた。取り戻せたんだ…。
だから早く…早く…!
この病院には中庭がある。
俺らでも駆け回れるほど大きな庭が。
今は何でもいい。
ただ走って子供の頃のように純粋でいたい。
走って跳んで転がって。
俺はクミと一緒に心の底から笑った。
ドンッ‼︎
ドサッ…
2人分の勢いも重なり、
俺は芝生の上に倒れ込む。
アイクさんとwatoさんは俺にくっついたまんま。
クミがそれを上から覗いてる。
日差しは俺らを容赦なく照らす。
その光はとても暖かい。
俺が夢の中で見た『思い出』と同じくらい。
温かくて、優しい。
俺が見た先にはプリズムが映る。
あかがみんの色が見える。
それは『思い出』であり『未来』でもある。
これまでの色彩鮮やかな記憶が頭の中を巡って、そばにいてくれる仲間と共に見た景色の先には綺麗な色で溢れてる。
世界はこんなにも綺麗だった。
記憶が抜け落ちてた時は、
ただの『色』だった。
今は色んな『想い』も見える。
クミ、ソーラ。
2人が夢で言ってくれたことがわかった気がするよ。
あかがみん揃ったら言うから。
『ありがとう』って。
そう叫ぶ。
これから来てくれるであろう親友達に届きそうな声で。
病室を抜け出して
よっぴー視点
朝1番、病室を開けて困惑した。
5人いるはずのベッドには1人しかいない。
ぺいんとさんだけ。
しかもまだ寝てる。
しにがみさんが言うには『単純に寝過ぎてるだけ』とのこと。
ならいいんだけど…他の4人はどこへ…
階段を駆け降りて、
中庭への扉を開ける。
目を疑った。
入院中なのに、昨日起きたばかりなのに、4人で駆け回って全力で笑っている。
ともさんが、力強く笑っている。
昨日みたいな寂しい笑いじゃない。
以前と何ら変わりないリーダー。
この一晩で何があったのか。
検討もつかない。
だけど1つだけわかるのは、
日常を謳歌するかつての私たちを思い出させるほど、楽しそうであること。
それすなわち…
ダダダッ‼︎
ドンッ‼︎
ダンッ‼︎
立て続けにともさんにぶつかる。
(病人にすることじゃない)
彼は笑ってこう告げる。
『当たり前だ!』って…
みんなで抱き合ってその場に寝転ぶ。
8人みんなが心も揃っている。
この光景をどんなに待ち望んだことか…
俺たちは涙を止めることが出来なかった。
to be continued…
脅威の6000文字越え…
読んでくれた人ありがとうー!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。