屋上のとある場所
ソーラ視点
やばい…すっかり眠ってしまった…。
やわらかい光に包まれて、
すやすやと夢の中だった…。
それにしても、
こんな時間帯に…
誰だろう…?
私は耳を澄ましながら遠くを見つめていた。
この際誰でもいいや、
この場所は私しか知らない。
誰にも気づかれてないからね。
あれ?バステンさんだ…。
しかも誰かといる…。
足音を聞くと…4人かな…。
いつも通りね、声が大きいw
あら、ぺいんとさんもいる…。
しにがみさんまで…。
でも、すみません。
私は返事をするつもりはありません。
ひとりでいたいんです。
私って学習能力が低いんですよ。
すぐに感情の通りに動いちゃう。
それのせいで…
くみちゃんも…転校しちゃって…
『猿山沙月さん、早く謝って。』
『あなたが悪いんだから…』
私は親に勘当されて、捨てられた。
そして問題児扱いに耐えられなくて、
私も転校した。
『おまえは一家の恥だ。出て行け』
『桃瀬家にも猿山家にも泥を塗った』
はっきりと口に出された小学3年生の夏。
私は家に戻ることを許されなかった。
それから養子に出され、
桃瀬家から分離されていた(らしい)
桃野家に引き取られた。
今の両親はとてもいい人たち。
私の言うことをすぐ信じてくれた。
でもさ、今振り返ってみても、残酷だよね。
何で友達を庇って怒られなきゃいけないのか
大人って何で子供にあんなことできるのか
子供より家の名前の方が大事なのか
私がニコニコしてる理由。
それは…
涙が溢れてしょうがない。
泣いたのもいつぶりかな…。
だって悔しいんだもん。
正しいことをしてる人が苦しんで、
みてみぬふりをしてる奴らが楽をする。
努力しても報われない世界なんて…
生きる意味はあるの…?
必要とされていない人間の末路は…?
そしてこの声は、
聞こえてないと思ってた。
静かに声を押し殺していたから…
でも、そんなの無駄だった。
ちゃんと届いてしまっていた。
響き渡る声
バステン視点
はっきりと聞こえた声。
しかも、探し求めていた声。
確実に近くにいる。
どこだ…!?
どこなんだよ…ソーラさん…!
後ろから音がした…。
僕の後ろは天文台。
この後ろにいるのか…?
でも、あったとしても、どうやって…?
緊急避難用のはしご…。
壁側についてる…。
これなら奥までいける…!
しっかりと掴んで…1つ1つ進む…。
この先にあなたがいると…信じて…。
物音がして…
ソーラ視点
避難用はしごの方から声が聞こえた。
ふと見てみると、見覚えのある白パーカー。
一瞬で誰かわかった。
急なことで混乱してるけど、
とにかく思い切り引っ張った。
ドサッ…
ギュッ…
急に抱きつかれた…。
それを理解するのに時間がかかってしまった
バステンさんは震えていた。
人の優しさって…温かいんだなぁ。
また…涙が溢れ出してきた…。
人前で泣いたことなんて小学生以来だなぁ。
大人と周りに冷たい目を向けられた時以来…
悔しい涙だった。
今回は違う。
本当の仲間の温かさ、優しさに救われた。
嬉しい涙だった。
ともさん達まで…。
私はさっきまで何てことを考えてたんだろう
こんなに仲間に恵まれてるのに…。
疑って離れようとして…。
バカだなぁ…!
あの頃とは違うのに…。
孤独なんて…訪れないのに…!
ともさんの目にも涙は浮かんでいた。
バステンさんは私と一緒。
ずーっと泣きっぱなし…。
ヒュウウウウ…
屋上に冷たい風が吹く。
来た方向とは逆を指す。
実はこっちにはちゃんとはしごがある。
天文台の隣に作られてるから実質ここに来れるのはこの空間を知ってる人だけ。
きっと私しか知らなかった場所。
弱い私でいることを許した場所。
これからはその意味も変わるんだろうな。
私が最後にはしごを登って、
ぺいんとさん達のところに戻りました。
またいつも通りなのかな。
また戻ってこれたのかな。
大好きな仲間。
わたしにはもったいないくらいの…。
う…寒い…。
やっぱり雨の中行くのはまずかったかな…。
まぁ、まだ寒気はしないから大丈夫なはずw
ふわっ…
きっと私の顔は紅く火照っているでしょう。
夕日に照らされてるだけだから…
そう言い聞かせるしかなかった。
どきどきとうるさい鼓動を聴かないようにするには…ね。
気まずい教室
しにがみ視点
時刻は16:30
最終下校時刻まであと30分を切っていた。
普通に危なかった…。
ソーラさんに伝えたいことは言えた。
ソーラさんの過去を知って、
これからのことを凄く怖がってた。
僕ら日常組はもちろん、ソーラさんにはあかがみんっていう大切な仲間がいる。
だから孤独になるなんて、
今後絶対に無い!これは断言できるよ!
それはそうと、今度は僕の方。
転校生はいじめに遭いやすい
まさにそれだった。
ちょっと優遇されてるのが許せない人達がうちのクラスには数名いた。
僕は平和主義者だからね!
争い事は嫌いなんだよ。
だから言い返さなかった。
弱者ってことになるけど、
あまり気にしない。
それが僕だから。
それに周りを見れば上辺だけの関係じゃない人たちがたくさんいる。
その人達が離れなければ、
僕は生きていける。
辛さなんてその一瞬だけだからね。
これは…全員忘れてたなぁ…。
僕らは走って校門まで向かった。
あちゃみさんとB高校のメンバーが待ちくたびれた顔でこっちを見ていた。
案の定、クミさんは仁王立ち。
ちょっと早く行ったともさんだけが鉄拳を喰らっていたw
でも、みんな怒りはしなかった。
みんなの近くへ行けば行くほど、ソーラさんの様子がおかしいことに気づいたからだ。
あれ?結構前だから消えたと思ってたのに…
流石の洞察力だなぁ、トラゾーさん。
それにしても…今言うべきなのかな…。
僕とソーラさんは顔を見合わせた。
お互いに決意した目を向けて、うなずく。
それくらい覚悟はしてる。
みんなに迷惑かけたくなかったけど、
相談しないほうがもっと怒られちゃうしね。
A高のメンバーも、
ソーラさんの過去は知らない。
B高のメンバーは、
何が起きたか全くわからない(あたりまえ)
きっと、このことを話したら…
ソーラさんは、ソーラさんらしく生きられるようになるだろうね。
偽りの顔なんて浮かばなくていい、
『良い子』を演じなくていい、
永遠の友達として、
僕はソーラさんの幸せを願うよ。
to be continued…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!