しばらくジョングクさんの足の間に捕まったままの状態で話をしていたら気付けばもうすぐ午前になろうとしている時間になっていて、今日はあまり眠れていない明日も仕事なジョングクさんを休ませないと。うつらうつらと私の肩に顎を乗せて少し眠そうな彼にそろそろ寝ましょうかと声を掛けると「あなたも一緒に?」そう首を傾げて確かめるように聞いてきたから、そう約束したでしょうと私が答えれば目尻を下げて嬉しそうに微笑んだ。
歯ブラシのストックがあったからそれを使ってもらってジョングクさんと並んで歯磨きをしたあと、今まで一本だけだった歯ブラシスタンドに彼が使った歯ブラシを置けば「これ、このままずっと置いてくれる?」そう甘えるように私の腰へ手を回したジョングクさんは聞いてきた。また泊まりに来ても良いのかといった意味を含む彼の問いに、良いですよと頷くと鏡越しに映ったジョングクさんは幸せそうな顔をしていて、そんな彼を見て私も自然と笑みが浮かんだ。だってとろんと眠そうなのも相まってその表情がとても可愛らしいんだよ。
眠いはずなのに甘い言葉を口にする時はどんな時でもストレートに言うんだから…この人は。
この雰囲気に耐えきれず、もう行きますよとジョングクさんの手を引いてサニタリールームを後にした。後ろで楽しそうに笑うジョングクさんを無視して熱くなった顔を手で小さく扇ぎながら。もう好意を表す言葉は沢山言われているはずなのに一向に慣れない。そろそろ慣れないと、そう思うけど相手がジョングクさんなのだからきっと慣れる事はないのだろうな…
サニタリールームを出たあと、リビングの照明を消して寝室に入ったらベッドが視界に飛び込んできた事により体は緊張し始めて歩いていた足はぴたりと動きを止めた。寝室に入る前から一緒に寝ると分かっていたはずなのに、いざそれに直面すると緊張してしまうもので。
ふわっと欠伸をして眠たげに瞬きをするジョングクさんは足を止めた私に「んー、どしたの?」そう眠くて足元がおぼつかない様子で聞いてきた。何でもありませんよと首を左右に振って、どうぞとぎこちなくベッドにジョングクさんを座らせたら、そのままころりと彼の体はベッドに沈んだ。あまり寝ていない中で仕事をして来たんだ、連日の忙しさも加わってきっと疲れていたんだろう。
なんて事を恥ずかしげもなく言ってのけるジョングクさんは白のシーツに顔を埋めながら、ふふっと笑っていてその姿を見ると更に緊張が体に走った。
なかなかベッドに入ってこない私に彼は顔を上げて体を起こし、座ると「ほら、おいで」そう言って隣に来るようベッドをぽんぽん叩いている。動かない足に喝を入れて一歩踏み出せばジョングクさんに手を取られて引き寄せられた。わっと驚いた声を上げて体勢を崩した私を彼は胸で抱きとめ、そのまま後ろ向きに倒れた事により体はベッドに沈んだ。
仰向きな自分の体に体を預けさせる状態だった私をそっとベッドに下ろしたジョングクさんは横向きになり、緊張するねと耳元で囁くように言ってから目を和らげつつ昨晩のように私は彼の抱き枕と化す。腕は体に回し、足を絡ませてぴたりと密着する彼の吐息が首筋にかかりくすぐったい。
じんと鼓膜が震えるような優しい声色で名前を呼び、こっちを向いてと言うジョングクさんが今から何をしようとしているのか分かってしまった。
恥ずかしくてたまらないのに、どこかそれを期待していた私はゆっくりと彼の方へ顔を向けて目が合った瞬間、お互い瞳を閉じて唇は彼の唇によって塞がれる。
そっと唇の輪郭をなぞる優しいキスはとても心地良く、無意識に自分も抱き返すようにジョングクさんの背中に腕を回していた。そんな私に彼は嬉しそうに口角を上げて一度唇を離したら「あなた…好きだよ」そう呟いてまた私の唇を塞いだ。
離してはまたすぐに塞いでといった軽く唇を合わせるようなキスを何度も繰り返している内に、その間ずっと微笑んだような柔らかい表情をしていたはずの彼はその表情を消して真剣な眼差しに変えると私をじっと見つめたあと、口元に視線を下げて今度は深く唇を塞がれた。
ジョングクさんの舌が閉じた唇に中へ入れてくれと合図を送ってきて、おずおずと薄く唇を開き応えれば熱い舌が口内に潜り込んでくる。唇を重ねた状態のまま彼は私を押し倒すように体へ跨ると、ベッドに沈む私の両手に指を絡ませて縫い付けた。ぎゅっと強く繋がれているから少しばかりの痛みはあるけれど、今はその痛みですら愛おしい。
ジョングクさんが好き、大好き。
そう心の中でずっと彼を想いながら必死でキスに応えていた。
このままジョングクさんの一部になりそうだと思わせる程にキスが激しさを増してきた頃、そろそろ息苦しくなってきた私は彼の胸元を軽く押してそれを知らせると、薄く目を開けたジョングクさんは最後にもう少しだけと言わんばかりに唇を更に深く塞ぎ、舌を絡ませて口内を隅々にまで這って回る。そんなキスに私が着いていけるはずもなくされるがままで。
ようやく唇が解放されると、もうどっちのものなのか分からない唾液で濡れた私の唇をジョングクさんは舐め取り、ご馳走様でしたなんて冗談めかして笑っている。でも笑ってはいるがその表情はぐっと欲情を我慢してくれている男の人の顔で、どこかなまめかしい。
げんこつは嫌だと笑うジョングクさんに大きめのブランケットを少し雑に掛けてあげて、もう早く目を閉じるんですよと言ってから自分もブランケットの中にお邪魔した。少し距離を取って彼の方ではない逆を向いて横になる私に「ちょっと何で離れて寝るのダメこっち見るの!」そう拗ねた口調で文句を言いつつ、彼の方に向きを直されてしまう。むっと口を尖らせて拗ねるジョングクさんが面白くて、そして可愛くて私がたまらず吹き出せばまた彼が口を尖らせて拗ねたのは言うまでもない。
お喋りはもうお終いですよと私の声掛けを最後に、ブランケットを掛けられた事により眠気が再びきた様子のジョングクさんは目を閉じてから五分と経たない内に夢の中へ。
ぐっすり眠った彼のあどけない寝顔が本当に可愛くて、ずっと見ていられるなぁ…なんて思っていたら私にもどうやら眠気がきたようで。ジョングクさんに寄り添いながらいつの間にか目を閉じて眠っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。