(※これは16話です。)
【川西side】
『けんしろー!川辺まで競走しよーや!』
『ええよ!よぉい、どんっ!』
ー俺は、小さい頃から外で遊ぶのが大好きだった。
『大丈夫!?おいっ!血ぃでてるやんけ!?まっとけ、今から母ちゃん呼んでくるからな!』
ー友達と川辺で石遊びしていたときも、頭に針を縫うほどの大怪我をしたこともあった。
『どうしたの?大丈夫?』
そのときは頭が切れた痛さからよく覚えていないけれど、誰かが前に表れて俺の顔を心配そうに覗き込んできた。
『っ.......?』
視界がぼやけて、声も遠くにしか聞こえなかったけど、3歳くらいの子供を連れたお母さんが電話を掛けていた。
その数分後に救急車のサイレンがなって、俺は病院に運ばれたんやっけ。
『賢志郎、何があったか説明して。』
『せやから言うてるやん、俺がたまたま投げた石があたったんかもしれんし、友達は悪ないねんて。』
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電話越しで、母は懐かしそうに笑った。
“德がある”、か。
なんか似たようなことを水田もよく口にするけど、そうなんやろか。
自分ではよく分からんけど。
おやすみ、と言って通話を切った。
病室から外を眺める。月が綺麗に輝いていた。
母が嬉しそうに昔の話をしていたとき
ちょっとだけ心が温まった。嬉しかった。
ほんのちょっとの幸せ。
これが毎日続けば、それでいい。
そう思えた。
ー旅行まであと一週間。