部屋へ戻ると、寝室に布団が敷かれていた。
和室の畳に布団が敷かれている光景は、修学旅行を思い出させて、少し懐かしく感じた。
賢志郎さんは濡れた髪を乾かすためにドライヤーを取り出し、布団の敷いてある近くのコンセントに繋げた。
これは単なる私の偏見だけど、男性は髪が短いし自然乾燥するもんだと思っていた。
.......ていうか、私もよくそうするし。(女子力皆無)
すると、賢志郎さんが「あなたっ」と私の名前を呼ぶ。
パッと振り向くと、私に向かって優しく微笑みながら手招きしていた。
と、賢志郎さんは自分が座っている前ら辺の布団にポンポンっと手を置く。
言われるがままに彼の元へ座ると、暖かい風が髪を撫でた。
彼の手が優しく私の髪に触れる度に、心臓が早鐘を打つ。
しばらく乾かして貰っていると、賢志郎さんはふとドライヤーの電源を切った。
と、思った矢先。
彼は後ろから手を回してぎゅっと私を抱きしめてきた。
彼の声がすぐ耳元で聴こえて顔が熱くなる。
年末のことを思い出す。
たしか、洗面所で賢志郎さんに寸止めされたんだっけ?
ー『.......やっぱこれ以上イチャイチャしてたら俺止められへんくなりそうやし、続きは今度遊ぶ時にしよか』
ふと賢志郎さんの言葉を思い出す。
うぅ、またやられた.......!
このドS西!!
彼は楽しそうに笑った。
そして、少し間が空いてから、彼はそっと耳元に口を近づける。
耳元で囁かれてゾクっとする。
賢志郎さんの手がそっと伸びてきて顎クイされる。
ゆっくり顔を近づけてきて目を瞑った。
今にも唇が触れそうになった瞬間ー
ピタッとまたもや寸止めで止まった。
お互い顔を見合わせる。
少し間を開けてお互いに頷き合うと、
「わかりました、今向かいますね。」
と賢志郎さんはいつもの調子で玄関に声をかける。
私もぱっと立ち上がり、急いで乱れていた髪と浴衣を整えた。
気を使ってくれたのか、賢志郎さんは寝室に残り、私はそそくさと中居さんの元へ向かった。
届けてくれたのは、身に付けていた小物と旅行用のシャンプー類。
下着とかじゃなくて良かった...、とほっとした反面、こんなにも大量の物を置き忘れていて自分の情けなさに肩を落とす。
中居さんにお礼を言い、もう忘れないようにと先にキャリーに詰める。
いい感じの雰囲気だったのに...自分のせいで台無しだ.......
と、思いつつ寝室に戻ると、布団にちょこんと座っていた賢志郎さんが優しい笑顔で私を迎えた。
.......
つい緊張して、何故か賢志郎さんと少し離れたところに正座して座る。
どうしようかと迷っていると、賢志郎さんが優しい眼差しで私に向かって両手を広げる。
甘くて
どこか切なくて
全てを彼に預けたいと思える、優しい一言だった。
ーあぁ、もう。
なんてこの人はこんなにも優しくて、包容力のある人なんだろう。
あんな悲しいくらい優しい声で「おいで。」なんて言われたら堕ちない女子なんてきっとこの世には存在しない。
そっと彼に身を寄せた。
さっきよりも少し強く抱きしめてくれる。
ー私が答えると、賢志郎さんは少し強引に私を押し倒した。
ー深くて、甘い大人な口付け。
動く度に浴衣の衣擦れの音が薄暗い静かな部屋に響きわたる。
賢志郎さんは、そっと私の浴衣の帯を緩めて、意地悪っぽい笑みを浮かべてから優しく身体に触れた。
ーつい1ヶ月程前までは、たった一匹の仔牛にすぎなかった私が
今こうして彼と愛し合っているなんて、いつ想像しただろうか。
ーそれから私たちは甘い夜を過ごした。