それから私たちは、京都の定番スポットを歩き回った。
「はい、チーズっ」
パシャッ
ーうん、いい感じ!
さっそく母のLINEにメッセージを書き込む。
『旅行、楽しんでまーす✨』っと。
ポンッと写真とメッセージを送る。
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ヴヴツツ
あなたの母は携帯を手に取り、あなたからのLINEを確認する。
写真をタップする。あなたの母は川西の顔を微笑みながら見つめる。
あなたの母は少し考えて呟いた。
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しばらくして、私たちは宿泊する旅館へと到着した。
川西さんがチェックインを済ますと、旅館の中居さんが部屋を案内してくれた。
それにしてもすごく立派な旅館だな.......
うぅ.......恥ずかしい.......
賢志郎さんも、中居さんにも笑われてしまった。
絶対子供っぽいって思われたに違いない.......
ー迷路のように長い廊下を歩き、中居さんに案内された部屋に入る。
「お食事の支度が出来ましたら、またお呼び致します。」と、中居さんは部屋をあとにした。
窓を開けて深呼吸をする。
外は緑に囲まれていて、川のせせらぎが心地よい。
賢志郎さんは私の横に並んで大きく伸びをした。
恩智川...................
その時、ポケットに入れていた私の携帯電話が震えた。
少しその場を離れて、電話に出る。
母が何か言いかけた時。
電話をきり、運ばれた料理を見る。
そこには豪華な懐石料理が並んでいた。
私は小声ながら賢志郎さんに訴える。
彼はクスクスと笑って口を開いた。
っ.......
なんか、サプライズでおもちゃを貰う子供みたいな扱い.......
私のこと、ほんとに1人の大人の女性として見てくれてるのかな.......
そういえば.............
『かっ、川西さん、私のこと子供だと思ってたりしません.......?』
『え?どうしたん急に?』
『だって、私のこと凄く心配してくれるし、さっきも『ええ子や』とか.......』
『別に子供としてなんか見てへんけど.......。なんとなく、ほっとけへん子やな、とは思ってるかな。俺が守ったらなあかん!って。』
ーそうして私たちは美味しいご飯を堪能した。
しばらくしてお風呂の時間になった。
風呂は男女別々で、各自で入ることとなる。
中へ入ると、ラッキーなことに誰もいなくて貸切状態だった。
浴槽も広々としていて、とても綺麗だった。
体を流してから浴槽へ浸かった。
ふぅ、と息を吐いて外を見る。
自然と夜のことを考えてしまう。
.......賢志郎さんは、どう思ってるのかな。
芸人さんと一線を超えること。肉体関係を持ってしまうこと。
ー私はもう仔牛ではなく、彼の彼女だ。
もちろん、私も心の準備はできている。
けど、私自身まだそういう経験はないし.......いざとなったとき、上手くできる自信が無い。
きっと、賢志郎さんは経験済みだろう。いや、そんな保証はどこにもないけど.......
賢志郎さんみたいな優しくて面白くてカッコイイ完璧な人、絶対1人や2人抱いたことあるはずだし、むしろない方がおかしいよね?
.......もし仮にあったとして、その今まで抱いてきた女性、どんな人だったのかな。
私じゃ比べ物にならないような色気のある綺麗な人だったんだろうな.......。
だってあの賢志郎さんだよ?
超ハイスペックな女性に決まってるじゃん.......
.......
.......
.......いや、もう考えるのは辞めよう。
ー私はお風呂をあがり、浴衣に着替えてロビーに出た。
辺りを見回すと、少し離れた所で煙草を吸っている賢志郎さんを見つけた。
でも、声をかけることが出来なかった。
なぜなら.......
.......すごく色っぽかったからだ。
濡れた髪に浴衣姿。煙草を吸っている彼の姿は今まで見てきた中でダントツで色気があってカッコイイ。
無理無理、カッコよすぎて近寄れない.......
私がつい見とれていると、ふと視線に気付いたのか賢志郎さんと目が合った。
同時にはっと我に返る。
近くに駆け寄って言うけど、ビジュが神がかっていて目が合わせられない。
.......
しばらく間が空いても彼の声がしない。
ゆっくり顔を見上げると、彼は手で口元を覆っていた。
普段髪を結っているから下ろしてる姿に驚いたのかな.......
ーそうして、いよいよ初めての夜が訪れようとしていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!