【川西side】
「あの、実は私……海外留学について考えてて。」
あなたはあの日、ずっと迷っていたことを俺に打ち明けてくれた。
俺はその場で、留学すべきだと言った。
でも、もしかしたら俺は無責任なことを言ってしまったのかもしれない。
自分で行ったほうがいい、と言っていて、胸が苦しくなった。
あなたが留学するか迷っている理由はただ1つ。
俺としばらく会えなくなるから。
俺は水田とかみたいに、女心を読める方ではないし、寧ろ疎いほうだ。
そんな俺でも彼女が迷う気持ちは痛いほどわかる。
なぜなら…
一昔前の自分なら、何がなんでもひきとめていたからだ。
好きな人には、傍にずっといてほしい人だった。
亭主関白な性格からかもしれないけど…。
でも、今回は違う。
好きな人の人生がかかっている。
容易く「行くな」なんて言えない。
かと言って、俺が決める権利もない。
でも、その2択には俺が大きく関わっている。
名前を呼ばれて振り返る。
舞台衣装に着替えた水田がいた。
と、楽屋の椅子に腰を下ろした。
すると、水田は呆れたようなため息をついて口を開いた。
真面目………?
よく言われる。
ー『川西さんは真面目ですね。』
ー『自分の気持ちを表に出さなくて賢いロボットみたい』
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【あなたside】
ーそんなんで諦めたらあかん!
何度も賢志郎さんの言葉が頭をぐるぐると回っている。
机にベタっと張り付いて、先生から貰ったパンフレットを眺めた。
美大の友達も、家族も、みんな行ったほうがいいって言ってるしなぁ…
行かなくても日本で美術の勉強はできる。
でも、行けばもっと自分の可能性を広げられる。
私が旅行の帰りに話したとき、賢志郎さんは迷うことなく行くのを進めた。
ほんのちょっとだけ、胸がきゅっとなった。
私のために言ってくれているんだと解ってた。
でも
でも、少しは止めてくれても良かったんじゃないかなって。
恋愛に疎い賢志郎さんにとったら、『会えない』ということは『そんなこと』で片付いてしまうことなのかもしれない。
我儘だな、私。
だから、あのとき上手く笑えなかった。
きっと、賢志郎さんも賢志郎さんなりに考えてくれてるはず。
だけど……
もし、本心から賢志郎さんが行った方がいいって言ったのなら…
ー時計の針が12時を回った。
1月25日。
最終決定まであと1週間。
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【川西side】
今日のスケジュールは劇場、収録、取材、劇場。
家に帰った時にはすっかり遅くなってしまっていた。
上着を脱いだ時、白い紙が落ちた。
京都に行った時引いた水占いのおみくじが入っていた。
……
ペラッ
相変わらず良いとは言えないおみくじだ。
待ち人・・・来ぬ。迎えよ。
恋愛・・・逃す。
家庭…
あぁ、あかん。たかが占いや。
…………でもなんやろ。
このおみくじから、凄いパワーを感じるのは。
気のせいかもしれへんけど…
…信じてみてもいいんかな。