無料ケータイ夢小説ならプリ小説 byGMO

第2話

彼が見る世界



 猫が喋ったことに驚き声を発することもできずにいると、彼に強く手を払いのけられて現実に引き戻される。

 払いのけた衝撃しょうげきで彼は私から離れてしりもちをつくように木の根にもたれ掛かり、持っていたビニールがさは草むらへと転がり落ちた。

???
???
ごめんなさい


 私の手を払ったいきおいに比べ、彼の声はか細くつぶやくようなものだった。うつむいているその顔をのぞき込めば、自嘲じちょうしているような笑みをかべている。

 なぜ謝っているのか、そんな顔をしているのか、わからないことだらけだけど、拒絶されていることは理解できた。

高槻 空央
高槻 空央
とりあえず、これ。
飲みかけで悪いけど、飲んでください
???
???
……え、けど


 彼は渡した水筒をおずおずと受け取ってくれたが、猫が居た場所と私を交互に見て言葉を詰まらせる。

高槻 空央
高槻 空央
……もしかして!
あの変な猫が見えるの!?


 私はまた猫の方へ視線を戻したが、そこには何もいなかった。

高槻 空央
高槻 空央
あれ?
さっきここに……
???
???
えぇ? ……み、見えない、けど
高槻 空央
高槻 空央
うそ
そんなわかりやすく焦ってたら、丸分かりですー!
ねぇ、見えたんでしょ?
???
???
うっ、……はぁ。
見えてる、のほうが正解かな
高槻 空央
高槻 空央
どういうこと?
っていうか、さっきの変な猫は何?
???
???
……妖怪ようかい、ってやつ。
僕、小さい頃からずっと見えるんだ


 私が詰め寄るようにたずねると、彼は観念かんねんしたように話し始めてくれた。

 その口から出た答えは予想外で、だけど、あんな猫を見た私はすんなりと納得した。

 そして、また新たな疑問ぎもんき上がってくる。
高槻 空央
高槻 空央
え、けど、なんで私まで?
???
???
僕が触れてる人も見えちゃうんだ。
……だから
高槻 空央
高槻 空央
あぁ! だから、触らないでって言ってたの!?
なんだぁ、よかったぁ~
???
???
よかっ、た?
高槻 空央
高槻 空央
あ、声かける前にじっと見ちゃってたから、不審者ふしんしゃだと思われてるのかなって
???
???
え、そんなことないよ!
心配してくれてるのはわかってたから!


 彼は全力で否定すると、思っていたよりも声を張っていたことに気付いたのか、恥ずかしさを誤魔化ごまかすように水筒に口を付けた。

高槻 空央
高槻 空央
ふはっ、そっか!
???
???
……それに、久々にたくさんの妖怪を見て頭が追いついてなかっただけ、かな。
道にも迷っちゃったし……
高槻 空央
高槻 空央
久々?
いつもはそんなに見ないってこと?
???
???
東京に住んでるんだけど、あっちにはあんまりいないんだ。
今年の夏は親が海外出張でいないから、仕方なくおばあちゃんの家に来てて


 彼はもう口ごもることなく色んなことを教えてくれて、私はきたてられた好奇心こうきしんを思うがままに質問としてぶつけていた。

 あり得ないと思っていた新しい出会いと知り得なかった世界を垣間かいま見た私は、退屈になるはずだった夏休みが急に色づき始めるのを感じる。
高槻 空央
高槻 空央
へぇ~!
ここは、そんなに妖怪がたくさんいるの?
あ、さっきの変な猫は?
???
???
……えっと、妖怪の話なんて、そんなに気になる?
高槻 空央
高槻 空央
もちろん!
だって、初めて見たもん!
???
???
……そっ、か。
さっきのは、猫又ねこまたっていう妖怪なんだけど、ちょっとおこってたよ
高槻 空央
高槻 空央
え? 怒ってるって、なんで?
???
???
変な猫って言われて嫌だったみたい。
まぁ、もういないけどね
高槻 空央
高槻 空央
あぁ!
そっかそっか、確かにそんな風に言われたら嫌だよね。
他には? 周りに妖怪いたりするの?


 そう聞くと彼は首を動かさずひかえめに辺りを見渡すと、私に耳打ちしようと顔を寄せてきた。

???
???
道を歩いてても人は全然見なかったけど妖怪はたくさん行き来してるよ。
森の中は公園みたいな感じかな
高槻 空央
高槻 空央
じゃあ、もしかしてこの町って妖怪の方が多いの?
???
???
そうだね、たぶん
高槻 空央
高槻 空央
えぇ~、そうだったんだぁ


 私が心底感心して見慣れた景色を見渡していると、隣からくすくすと彼の笑い声が聞こえてきた。

???
???
ふふっ。
君ってすごいね
高槻 空央
高槻 空央
え? すごい?
???
???
こんな話を楽しそうに聞いてくれる人なんて初めてだよ。
話すと避けられたり、嫌がられちゃうことの方が多かったから


 彼の嬉しそうだった笑顔はだんだんと変わり、さっきも見た自嘲するような笑みになっていた。

 胸を締め付けられるようなその笑みや彼の最初の態度を思い出し、嫌な予想が頭をよぎる。

高槻 空央
高槻 空央
(もしかして、いじめられてたのかな?)
???
???
だから、僕も見ないようにしようと思って、この傘はそれで差してるんだ
高槻 空央
高槻 空央
傘を差すと見えなくなるの?
???
???
人工物を通すと、かな。
このビニール部分を通せば見えないんだ。
まぁ、足元は見えちゃうんだけどね
高槻 空央
高槻 空央
そうなんだ……。
ごめん、私そういうことも知らずに無理に話させてたよね
???
???
あ、大丈夫だよ!
たしかに最初はちょっと怖かったけど、……大丈夫


  彼のその言葉に嘘はないように見えたが、やっぱり心配で私は立ち上がってビニール傘を拾い上げた。

高槻 空央
高槻 空央
道に迷ってるって言ってたよね。案内するよ
???
???
本当? ありがとう


 歩きはじめると、彼は眼前がんぜんさえぎるようにビニール傘を前に倒して差した。

 彼にとって妖怪は見たくないものだということがよくわかる。


 けど、またさっきみたいに彼の隣でその話を聞きたい、そんな欲望が私の中でふつふつと沸いていた。


 家までの道のりは複雑なもののそれほど遠くもなく、タイムリミットはもうすぐそこだった。
高槻 空央
高槻 空央
あの!
???
???
ん、なに?
高槻 空央
高槻 空央
わ、私も見てみたい! 妖怪!
???
???
……え、っと


 悩んでいるのだろう沈黙が続き、彼のおばあちゃんの家の前へとたどり着いた。

高槻 空央
高槻 空央
あー、ごめん!
やっぱり――
???
???
待って!


 困らせたいわけではない。

 私は仕方ないと諦めようとしたが、それは彼の言葉で遮られた。

???
???
じゃあ、また明日、少しだけね


 彼は嬉しそうな、やっぱり少し困っているような、そんな複雑な笑顔を浮かべていた。

 けど、その答えだけで私の心は跳ね上がるように踊り始めてしまう。

高槻 空央
高槻 空央
ありがとう!!
じゃあ、今日話してたあの木陰で待ち合わせね!
……あっ! 名前聞いてもいい?
森園 綴
森園 綴
あ、そういえばそうだね。
僕、森園綴もりぞの つづる
高槻 空央
高槻 空央
じゃあ、綴ね!
私は、高槻空央たかつき あお。空央でいいからね。
森園 綴
森園 綴
え、……あー、うん。
じゃあ、また明日ね、……空央
高槻 空央
高槻 空央
うん!
またね、綴