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第10話

狂い咲く椿


 「お主は、誰だ?」そうたずねてきたのは確かにつづるで、けど、別人だということはすぐにわかった。

 綴の手を無理矢理にぎれば、彼の後ろには女性の姿をした妖怪がぼんやりと透けた状態で立っている。長い赤髪は椿の花弁を思わせ、漆黒の着物はその美しさを引き立てていた。あやしく奇麗きれいで、彼女からは今にも消えてしまいそうな危うさを感じる。

 私が言葉も発せずに見つめていると、彼女のほおしずくが伝った。



高槻 空央
高槻 空央
まどわされちゃダメ! 私はつづるを助けにきたんだから!)
高槻 空央
高槻 空央
……帰ろう、綴!
椿
お主、われが見えるのだな?
このわらべに語り掛けようとも無駄むだこと。意識はが手中にある
高槻 空央
高槻 空央
あなたが、綴をここまで連れてきたの?
椿
いかにも。童をさらうくらい造作ぞうさもない
高槻 空央
高槻 空央
今すぐ返して!!


 ふん、そう椿の妖怪が鼻を鳴らすと、綴の手が私のそれを握り返した。
森園 綴
森園 綴
……空央あお、そこにいるの?
高槻 空央
高槻 空央
綴!!
早く帰ろう!!
森園 綴
森園 綴
待って、話を聞いてほしんだ
高槻 空央
高槻 空央
え、……話って?


 うつろなひとみが私をとらえると、彼はぽつりとつぶやくように話し始める。

森園 綴
森園 綴
僕、あの角の生えた妖怪の言葉が忘れられなくて、椿祭りが何なのか気になってたんだ
高槻 空央
高槻 空央
そうだろうとは思ってたよ。私も気になったし
森園 綴
森園 綴
うん。実は、妖怪たちにも椿祭りについて聞いてて、わかったんだ。
人は皆、祭りの意味も忘れていたけど、妖怪たちは最近のことみたいに覚えてた
高槻 空央
高槻 空央
どういうこと?
森園 綴
森園 綴
ねぇ、君からも何があったのか聞かせてよ。
知りたいんだ、君の気持ちを


 綴がそこまでいうと、椿の妖怪は伏せていた視線を上げて私たちを見据みすえる。

椿
つまらない話さ。
我と人の気まぐれが重なってもつれただけ


 椿の妖怪は深いため息を1つついて、口を開いた。

椿
我はこの一帯では多少力を持つだけのただの妖怪だった。
あの日も肌が焼けるように暑い夏で、気まぐれに、冬に咲く椿の花を咲させてみせたのだ
椿
それを見た人は、この森には神が住んでいるなんて妄言もうげんを吐いた。しかし、それは噂となってすぐに広まり、同時に我が力も増していった。

真夏に狂い咲く椿を目の当たりにした人々が、腰を抜かして驚く様は見ていて愉快でな。
……いや、違うか。
その瞳に映ることのない我を、椿を通して目にとめた彼奴きゃつらが……愛おしかった




 彼女の悲しげな表情は、綴によく似ていた。



高槻 空央
高槻 空央
(この妖怪も、寂しかったんだ)
椿
それから毎年、焦げるような日々がおとずれる度に椿を狂い咲かせていたら、人は「椿祭り」なんてものを始めてな。まぁ、少しの供え物と彼奴らが酒をあおるだけの花見だったが。
椿の花を愛でる瞳には、やはり惹かれるものがあったよ


 そこまで話すと、彼女の表情は暗く濁るように曇っていった。

椿
だが、やはりそれは人とて気まぐれだったのだ。
年月が経てば語られずに忘れられていき、今では形だけの祭りなんぞを人里で繰り返している。

それでも、我は忘れられずに、
何百、何千、何万もの月日を経て、この森の椿を変わらずに咲かせ続けた


 彼女の手は打ち震え、その感情がまるで直接流れ込んでくるような不思議な感覚におそわれる。

 しかし、その手を綴が両手で包みこみなだめるように撫でると、私の心にも安らぎがおとずれる。

椿
……もう、我には人に見える椿の花を咲かせる力もない。
何もかも忘れ去られて、存在も危ういのさ。
情けないが、孤独なまま消えゆくのは恐ろしい。
だから、その瞳に我を映す童を攫ったのだ
森園 綴
森園 綴
大丈夫。
今は僕が君を見てるよ。
寂しくなんてない
高槻 空央
高槻 空央
つ、綴?
森園 綴
森園 綴
よくわかるんだ。
僕は自分から、人とも妖怪とも関わらない道を選んだけど、本当はずっと前から寂しかった。
居ないものとして扱われる毎日が辛くて、けど、どうすれば全部がうまくいくかわからなくて……


 綴の抱えていたものを聞き、それが私では到底とうてい想像することもできないものなんだと思った。

 けど、椿の妖怪にはそれを理解できる。

椿
なら、ここで共に暮らさぬか?
森園 綴
森園 綴
僕でいいなら……
高槻 空央
高槻 空央
待って!!


 叫ぶようなその言葉を発せば、彼らは私の方を振り返る。

森園 綴
森園 綴
……空央
高槻 空央
高槻 空央
私は……、私にはあなたと綴の悲しみを全部理解することは、できないかもしれない!
けど、寄り添うことは……できる


 私は必死に言葉を繋げた。

 熱くなる喉から震えてしまう声を絞り出して、なにを伝えればいいのか頭を巡らせる。
高槻 空央
高槻 空央
私はずっと綴に、妖怪が見えることを嫌な思い出だけでりつぶしてほしくなかった。
見えることで苦しんできたのは知ってる。
けど、関わり方がわからないだけで、嫌いなようには見えなかったから!


 綴が私を見つめる目はとても優しく、私の言葉を1つ1つ噛みしめている様に見えた。

高槻 空央
高槻 空央
妖怪と人、両方と関わるのは難しくて、板挟みになっちゃうんだと思う。
けど、人間の世界も捨ててほしくないの。
……まだ、綴がもっと他の人と笑顔で話せる方法が……わからないんだけど、
……けど!


 もう、なにを言っているのか自分でもわからない。

 ただ、綴を引き留めたい一心で言葉をつむいでいくだけで、精一杯だった。


 私は震えてしまう手で、綴の指先を離さないように掴んだ。

高槻 空央
高槻 空央
私は綴と出会えて、一緒に妖怪やこの町の景色を見れて、……毎日が楽しい夏だった!
もっと、綴と一緒に……いたいよ!
森園 綴
森園 綴
うん、……ありがとう、空央


 いつの間にか綴の瞳からは、宝石のように奇麗な涙がこぼれ落ちていた。

高槻 空央
高槻 空央
綴が辛い時は私が手を引くから、……だから、
1人でそっちに行こうとしないで


 お願いをするように綴の瞳を覗き込めば、彼は手を引いて、そして私の体をき抱いた。

森園 綴
森園 綴
本当に弱くて、ごめん。
僕も、空央と同じ景色を見れたこの夏は幸せだったよ。
もっと、空央の世界を知りたい


 綴のぬくもりに安心してその背中に手を回せば、椿の妖怪が彼の体から出ていくのが見えた。

 そのまま消えてしまうように立ち去ろうとするから、私は無理矢理引き戻すように彼女の手を掴む。

高槻 空央
高槻 空央
あなたもだよ。もう1人になんてしないから


 椿の妖怪は目を丸く見開くと、懐かしむような目で微笑んだ。

椿
彼奴らのようなことを言うのだな。
その言葉、忘れてくれるなよ
高槻 空央
高槻 空央
彼奴ら……?
まぁ、私が言ったことは忘れない。
約束するよ
森園 綴
森園 綴
ごめんね、けど、また会いに来るから


 そう約束して、私と綴は神社から出て、外へと踏み出した。