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第1話

夏の始まり
4,736
2020/08/20 04:00
高槻 空央
高槻 空央
ねぇ~、夏休みどっか遊びに行こうよ~!


 し暑い体育館での終業式も終わり、明日からは高校生になって初めての夏休み。

 仲のいい友だちと楽しく遊びの計画をーー。

千紘
もう、さっきも言ったでしょ~、空央あお
合宿に練習試合、夏の大会!
部活三昧ざんまいなの、ごめんね
仁美
私は、家族旅行に……


 遊びの計画を、立てるはずだった。

 あきらめきれずにさそってみたけど、どうやら首をたてに振ってくれることはなさそう。

千紘
親公認の彼氏を連れて家族旅行か―、なるほどねー
仁美
ち、千紘ちひろちゃん!
高槻 空央
高槻 空央
あ~ぁ、もういいですー!
私1人で楽しい夏休みを満喫まんきつしてやるからっ!


 わざとらしい泣き真似まねをして教室を飛び出せば、千紘ちひろに「がんばれ~」なんて呑気のんき声援せいえんを送られる。

高槻 空央
高槻 空央
薄情者はくじょうもの~っ!


 教室に残っていた同級生たちの笑い声と、「走るな!」という先生の注意を聞き流し、私は廊下ろうかを走り抜けた。

 昇降口しょうこうぐちを出て見下ろした先には、あざやかな緑の森に囲まれ、広大な田畑と一筋のんだ小川が流れる町がある。そこには高層ビルやスクランブル交差点などの都会的なものは一切ない。

 室内でも聞こえていたセミの喚くような鳴き声が一層うるさくなった。
高槻 空央
高槻 空央
(夏休みを満喫なんて、できないよねぇ。
コンビニすらないこんな田舎で、1カ月も1人でどうしろっての?)


 山の上にある高校から町までは、草木が生いしげる森の中の丸太階段を通る。はばちがう手作り感あふれる階段も通りれたもので、私はそれを軽やかに下りて行った。
高槻 空央
高槻 空央
(畑の手伝いがあるから部活には入らなかったし、家族旅行も期待できないしなぁ)


 幼いころは森を探検したり、川遊びをしていたけど、もうそれを楽しいと思えるとしでもなければ、1人でやって楽しい遊びでもない。

高槻 空央
高槻 空央
(私にも彼氏がいたら違ったかなぁ?
けど、生まれた時からみんな知り合いって感じで、そんな風に思えなかったんだよね)


 丸太階段を下り終えて森を抜ければ、鬱陶うっとうしいくらいに照り付けてくる太陽が待ち構えていた。

 まぶしすぎる日差しに手をかざし、また家までの道のりを歩きだそうとした時、晴天とは似つかわしくないビニールがさが目に入った。


 雲一つない青空の下、物憂ものうげな表情で森の中を見つめる黒髪の美少年がビニール傘を差していたのだ。


 
高槻 空央
高槻 空央
(雨も降ってないのに、ビニールがさ
……っていうか、奇麗きれいな人だなぁ)


 一目でこの町の人ではないとわかる。

 袖から伸びる女性的なうでや不健康そうなほど色白の肌はあやしく奇麗きれいで、ビニール傘も相まって、彼がこの世の者ではないようにさえ見えた。目をうばわれて観察かんさつしていると、森を見つめるそのひとみが何かにおびえているようだった。

 私は無意識のうちに、彼に歩み寄っていた。
高槻 空央
高槻 空央
あの、大丈夫だいじょうぶですか?


 そう声をかけると、彼はやっと私に気付いたようで、目を見張り身構みがまえてしまう。
???
???
っ……


 何かしゃべってくれるのかと思いきや、すぐに口をつぐんで私に背を向けた。
高槻 空央
高槻 空央
え? あの……


 何か失礼なき方していたか考えめぐらせ、もう一度声をかけた瞬間、彼はフラフラと覚束おぼつかない足取りで私の方へ倒れかかってきた。

高槻 空央
高槻 空央
え!?
大丈夫? って、あっつ!
もしかして、熱中症?


 ビニール傘をけてうまく受け止めると、触れた肌から熱を感じた。

 畑仕事のおかげもあり熱中症の対処法をよく心得こころえていた私は、とにかく、彼を木陰こかげに連れて行こうと腕をこしに回した時――。

???
???
触ら、ないで……ください
高槻 空央
高槻 空央
……い、いや、これは変な意味じゃないですよ!?
っていうか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?


 腕を振り払おうとする彼の弱々しい抵抗に少し傷つきながらも、私は強引に肩を貸して少し道を外れた森の木陰に移動する。

 もしかして、私が知らぬ間に変な目で彼を見ていて不審がられているのか、なんて不安に思っていると、草むらをかき分けて歩くような音が聞えてきた。

高槻 空央
高槻 空央
(階段じゃなくて草むらを歩いている人なんてめずらし――)


 物音の方へ視線を向けると、そこにはかさをかぶり草をくわえた2足歩行のねこが、2本のしっぽをらして歩いていた。

高槻 空央
高槻 空央
へぁ?


 笠をかぶった旅人のような姿の猫を見た私は、思わず間抜けな声をらした。

 生まれてからずっとここで暮らしてきたけど、こんな猫を見るのは初めてのことだった。

2足歩行の猫
なんや嬢ちゃん、ワイのことが見えるんか?
高槻 空央
高槻 空央
――っ!?!?







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