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第12話

広がる世界


 青空には雲ひとつなく、太陽がほこらしげにかがやいている。

 私は待ち合わせの木陰こかげへ向かって足をみ出すが、その足取りはどうしても重くなってしまう。


 つづるの姿が見えてきた時、彼はビニール傘を差しているにもかかわらず、足元を見つめて楽しそうに話していた。

高槻 空央
高槻 空央
つづるー!!
森園 綴
森園 綴
あ! 空央あお、少し遅刻!
高槻 空央
高槻 空央
ごめーん!
ちょっと髪型が決まらなくて!
森園 綴
森園 綴
ふふっ、そんなこと言って、
本当は僕が帰っちゃうのが嫌で家を出られなかったんじゃないの?
高槻 空央
高槻 空央
ふはっ、バレたかー!


 そう、今日は夏休み最終日、綴が東京に帰ってしまう日だ。



 綴はおもむろにビニール傘をたたむと、それを私の手に掴ませる。

森園 綴
森園 綴
これ、あげるよ。
僕にはもう必要ないから
高槻 空央
高槻 空央
……うん、大切にするね
森園 綴
森園 綴
ふふっ、コンビニで買ったただのビニール傘だけどね。
もうボロボロだ
高槻 空央
高槻 空央
そういうのはいいんですー!
思い出が詰まってるから大切にするの
森園 綴
森園 綴
わかってるよ、ありがとう。
……電車一本遅らせたから、ゆっくり歩いていこう
高槻 空央
高槻 空央
うん!


 綴はいつものように手を差し伸べてくれたけど、私はそれをとらずに歩きはじめる。

森園 綴
森園 綴
いいの?
最後に妖怪たちにあいさつとか?
高槻 空央
高槻 空央
うーん、見えないけど、これからもずっと一緒にいるから大丈夫!


 そう強がりを言ったけど、本当は寂しい町の景色にもう心が折れていた。

高槻 空央
高槻 空央
なーんて、見えないのが寂しくて手を繋いだら離したくなくなっちゃうから、いいの!
森園 綴
森園 綴
ふーん、それだけ? 寂しいなぁ


 私の顔を覗き込む綴は意地の悪い笑みを浮かべて、わざとらしく寂しそうな顔をして見せた。

高槻 空央
高槻 空央
あっ、それずるいから反則ですー!
見ないもんね
森園 綴
森園 綴
えぇ? ごめん、もうしないよ。
こっち向いて?


 顔に集まる熱を強い日差しのせいにしようと、私は空をあおいだ。

森園 綴
森園 綴
ふふっ、みんな空央の周りに集まってるよ
高槻 空央
高槻 空央
え、綴の周りじゃなくて?
森園 綴
森園 綴
僕はもうさっきお別れを言ったしね
高槻 空央
高槻 空央
そう……なんだ
高槻 空央
高槻 空央
(お別れ……、私は綴とも妖怪たちともお別れなんて、したくない)


 そんな風に思うと視線はどんどん下に落ちていき、私は道を見つめながら歩いていた。

森園 綴
森園 綴
空央! そんな暗い顔しないで?
そんな今生の別れみたいなの嫌だよ
高槻 空央
高槻 空央
だ、だってぇ!
森園 綴
森園 綴
次は、空央が僕の住んでるところまで来てよ!
それまでに、……紹介できる友達を作るから


 そう言った綴の瞳からは強い意志を感じ、私の顔はそれだけで綻んだ。

高槻 空央
高槻 空央
本当に?
森園 綴
森園 綴
うん!
それに空央が言う通り、みんなはいつもそばにいるだろうから見えなくても一緒だよ
高槻 空央
高槻 空央
うん、……うん! そうだね!
んぅー、元気だしまーす!
森園 綴
森園 綴
椿のこともよろしくね。
きっと、いつでも空央を歓迎してくれるよ
高槻 空央
高槻 空央
任せて!
っていうか、私が寂しくて通い詰めるかも
森園 綴
森園 綴
はははっ、それありえそう!


 電車までの道のりは長いはずなのに、最後の時間はあっという間に終わりを迎えようとしていた。


 駅のホームに辿たどり着けば、すぐに電車が来ると知らせるベルが鳴りひびく。

森園 綴
森園 綴
本当に、最後まで触れなくていいの?
高槻 空央
高槻 空央
うん! もう大丈夫!


 ふーん、と口をとがらせる綴は少し可愛くて、私は思わず笑ってしまう。

 そのとき、急に手を引かれ、私はバランスを崩して綴の腕の中に倒れ込んでしまう。

森園 綴
森園 綴
僕が我慢できないから、少しだけ
高槻 空央
高槻 空央
ふははっ、……うん


 綴の背中に手を回すと、周りから彼以外のぬくもりを感じる。

 囲むように妖怪たちはそこにいて、すり寄っていたり、頭を撫でてくれたり。そこに言葉なんて1つもなかったけど、私たちはしばしの別れを告げていつかの再会を約束をした。







 綴は電車に乗り、私はそれが見えなくなるまで手を振り続けた。

高槻 空央
高槻 空央
帰ろっか!


 晴天の下、私は綴にもらったビニール傘を差して家路についた。吹き抜ける風と、今は見えない大切な友達と一緒に。