「私と同じ天照院奈落の一員だったって事。」
そう彼女は無表情に言った。
天照院奈落…私がそこにいた?
お父さんと2人で道場に暮らしていた事は覚えている。
生まれた時から暮してたはず…
昔の事を思い出せない。
お父さんと別れたあの日より前の記憶があやふやなのだ。
それが何故かはよく分からない。
今までゴリ兄達に昔の事を聞かれることはなかったから知らないはず。
ゴリ兄達は驚いたのか少しの間固まっていた。
そして最初に口を開いたのはトシ兄だった。
私に聞いているみたいだけど、私もよく覚えていないので黙っていると信女が
「そう。」と答えた。
私が…暗殺組織に居た…?
今までずっとあの道場に生まれて育ったと思い込んでいたのに。
ドーナツ屋さんで信女とすれ違った時懐かしい匂いがしたと感じたたのは同じ天照院奈落って所にいた時に嗅いだことがあったって事かな。
自分でも少しは分かっていたっちゃ分かってたかもしれない。
天照院奈落って名前を聞いた時、そんな組織知らないのに頭の中にはその組織にいる自分が見えた。
私の剣術だってゴリ兄達とは少し違うことも分かってた。
それはお父さんに教えて貰ったものだと思ってたけど、考えた見れば子供暗殺術なんて教えないよね。
信女は軽く頷いた。
それまで黙って携帯をいじっていた佐々木さんは
佐々木さんの話を信女はスルー。
珍しく優しい総悟兄と2人の言葉を聞いて少し安心。
そう言ってくれて嬉しい。
気づいたら涙が流れていた。
なにか…忘れてる気がする。
みんな忘れてたのか急いで歩き始めた。
ドーナツをよこせということなのか…。
ドーナツ好きなんだね、本当に。
思い出したくないだけ…。
無意識に記憶から消そうとしているって事?
自分でも分からない。
ゆっくり思い出せたらいいな。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。