Eve side.
今日は、僕のワンマンライブ。
チラッと外を覗いてみたけど、めっちゃ人いた…
どうしよ、ちゃんと出来るかなぁ。緊張する…
そんなことを思っていると、誰かが僕の楽屋のドアをノックした。
べだくんか、そういえば来てくれるって言ってたなぁ。
ドアが開き、べだくん…と、もう1人女の子が入ってきた。
誰だろ、べだくんの彼女さんかな?
そう思っていると、その女の子は、僕を見るなり目を輝かせて
と叫んだ。
え、何、べだくん ここに僕がいるって説明してなかったのかな?
え、どういうこと?
とりあえずその子のことを知るために、べだくんに聞いてみた。
そうなんだ、でもさっきからすごい疑わしそうな目でこっちを見てるんだけど…
でも、本当に僕のファンの子なら、それはもう感謝しかない。
え、べだくんそこから説明してなかったんだ。
そりゃ僕がここにいることも説明してないよね。
ようやく状況が分かってきた。
僕 顔出ししてないから本物なのかイマイチ分からないんだろうなぁ。
そんなことを呑気に思っていると、いつの間にかその女の子が泣いていた。
あなた。聞き覚えのある名前。
…思い出した。いつも僕の動画にコメントをくれる方だ。
僕が今ほど人気のなかった頃も、すかさず動画にコメントをくれて、ツイキャスの時とかもいつも聞いてくれてた子だ。
今は、僕なんかに会えたぐらいで泣いてくれてる。
色々なことを思ってからあなたさんを見ると、僕まで泣けてきた。
丁寧な口調のあなたさんが差し出したのは、はらぺこ商店のスマホカバー。
あなたさんの手は緊張しているのか震えていて、なかなかこっちに手を出すことができない。
これは僕からいくしかないよね。
本当に本当に、僕なんかのことを好きでいてくれてるんだな。
あなたさんがそう言ったあと、べだくんが何か考えてから「良いこと思いついた!」とでも言うように口を開いた。
普段なら少しためらうところだが、何故かこの子の場合はすんなり許せた。
この子の愛情が真っ直ぐ伝わってきたからか、それともただ単に僕がこの子を気に入ったのか。
僕が両手を広げると、あなたさんが飛び込んできた。
ギュッ
僕に抱きついてとても嬉しそうにしているあなたさんを見ると、何だか僕まで嬉しくなってきた。
そうやって僕にずっとしがみついているあなたさんがとても可愛くて、僕は思わずあなたさんの頭を撫でていた。
べだくんが笑っている。
笑っているけど、何だか目は笑っていない気がした。
べだくんとあなたさんが僕の楽屋から出て行く。
顔に出さないようにはしてたけど、ちょっときつい…
帰ってくれて良かったけど、もうちょっといたらべだくんにはバレてたかもな。
どうやら僕は、
あなたさんに一目惚れしてしまったらしい。
今日のライブはあなたさんも見てくれるんだ。
これは頑張るしかないよね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。