王牙くんの彼女でいられる期限が
残り2日に迫った頃──。
私は今日も昼休みに学校の屋上で
王牙くんとお弁当を食べて、
それから一緒にまったり過ごしていた。
あくびをしながら、
王牙くんは許可なく私の膝を枕にする。
その何気ないひと言に、
ズキッと胸が痛む。
努めて明るく振る舞うと、
王牙くんは目を見張った。
きっと、予想だにしていない
答えだったんだろう。
私はいつも、
王牙くんを突っぱねてばっかりいたから。
このわからず屋に、
ちょっとくらい意地悪を言ってもいいよね。
ささやかな仕返しを込めて、
嫌味をぶつける。
この時間が、
もっと長く続けばいいのに……。
これが最後だと思うと、恥ずかしさよりも、
もっと王牙くんに触れたいと思う。
そんな感情に突き動かされて、
私はほとんど無意識に王牙くんの柔らかそうな
髪に手を伸ばすと、そっと梳いた。
気持ちよさそうに目を閉じる王牙くんから、
規則正しい寝息が聞こえ始める。
初めは面倒な人と関わっちゃったな……なんて、
思ってたのに。
気づいたら、
私の中でいて当たり前の存在になってた。
気づいたら、ほっとけないなって、
王牙くんのことばっかり考えてた。
そんな私の呟きは、
伝えたい人の耳に届くことはなく……。
物言わない空に、吸い込まれていった。
***
そして、約束の日がやってきた。
放課後、みんなが帰って静かになった教室で、
私は王牙くんと最後の時まで一緒に過ごす。
それでもやっぱり我慢できず、
私は隣の席に座る王牙くんに向き直った。
ギュッと制服のスカートの裾を握りしめて、
私は俯く。
言わなきゃ、きっと後悔する。
そう思って顔を上げると、
王牙くんの瞳をまっすぐに見つめた。
思いきって告白すると、沈黙が訪れた。
返事を待つ間、
ひどく長い時間があったように感じる。
やがて、王牙くんは返事の代わりに席を立った。
名前を呼んだけれど、
王牙くんは私に背中を向けてしまう。
そう言って、教室から去っていく
王牙くんを呆然と見送る。
その姿が完全に見えなくなると、
目からポロポロと大粒の涙がこぼれた。
私はその場に崩れ落ちるようにして座り込むと、
両手で顔を覆った。
意地悪で強引で、
いつも自分の意見を押し通す王牙くん。
そんな俺様魔王なのに、いつの間にか。
振り回されるのも悪くないなんて、
思ってる自分がいた。
でも、王牙くんは私と過ごした日々に
少しも思い入れはなかったんだ。
きっと、王牙くんにとって私は、
友達でも恋愛対象でもない。
ただの暇つぶし相手だったんだろう。
そんな悲しい現実に涙が絶え間なくあふれて、
声を押し殺しながら泣いていると、
ふいに声が聞こえる。
涙を拭うのも忘れて顔を上げると、
そこには優斗くんがいた。
まだ、帰ってなかったんだ。
ぼんやりとそんなことを考えていると、
優斗くんは血相を変えて私の目の前にしゃがみ込む。
こんなに号泣してるところを見られて、
いまさらごまかせないよね。
私は観念して、すべてを打ち明ける。
すると、優斗くんは私をそっと抱き寄せた。
そうは言われても、
簡単に忘れることなんてできない。
それがわかっていながら、
私は優斗くんの優しさを無下にしないように
嘘をついた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。