第9話

9話 泣いても泣いても、君が好きで
王牙くんの彼女でいられる期限が
残り2日に迫った頃──。

私は今日も昼休みに学校の屋上で
王牙くんとお弁当を食べて、
それから一緒にまったり過ごしていた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
ふああー、ねみい
あくびをしながら、
王牙くんは許可なく私の膝を枕にする。
野々村 姫
野々村 姫
ちょっと! 
勝手に膝に頭をのせないでっ
佐伯 王牙
佐伯 王牙
いいだろ、もうそろそろ期限なんだし。
お前の膝枕、
これで最後かもしれねえし?

その何気ないひと言に、
ズキッと胸が痛む。
野々村 姫
野々村 姫
それもそうだよね……。
しかたない、許してあげる
努めて明るく振る舞うと、
王牙くんは目を見張った。

きっと、予想だにしていない
答えだったんだろう。

私はいつも、
王牙くんを突っぱねてばっかりいたから。

佐伯 王牙
佐伯 王牙
てっきり、からかわないでって、
怒るかと思ったのに……。
どういう風の吹きまわし?
野々村 姫
野々村 姫
気まぐれですよー、
王牙くんが私を彼女にしたときみたいに

このわからず屋に、
ちょっとくらい意地悪を言ってもいいよね。

ささやかな仕返しを込めて、
嫌味をぶつける。


この時間が、
もっと長く続けばいいのに……。


これが最後だと思うと、恥ずかしさよりも、
もっと王牙くんに触れたいと思う。

そんな感情に突き動かされて、
私はほとんど無意識に王牙くんの柔らかそうな
髪に手を伸ばすと、そっと梳いた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
それ、俺が眠るまでしとけよ
気持ちよさそうに目を閉じる王牙くんから、
規則正しい寝息が聞こえ始める。

初めは面倒な人と関わっちゃったな……なんて、
思ってたのに。

気づいたら、
私の中でいて当たり前の存在になってた。

気づいたら、ほっとけないなって、
王牙くんのことばっかり考えてた。
野々村 姫
野々村 姫
もっと……一緒にいたかったな
そんな私の呟きは、
伝えたい人の耳に届くことはなく……。

物言わない空に、吸い込まれていった。


***


そして、約束の日がやってきた。

放課後、みんなが帰って静かになった教室で、
私は王牙くんと最後の時まで一緒に過ごす。

それでもやっぱり我慢できず、
私は隣の席に座る王牙くんに向き直った。
野々村 姫
野々村 姫
ごめん、王牙くん
佐伯 王牙
佐伯 王牙
なにが?
野々村 姫
野々村 姫
王牙くんは1週間って
言ったけど、私……

ギュッと制服のスカートの裾を握りしめて、
私は俯く。


言わなきゃ、きっと後悔する。


そう思って顔を上げると、
王牙くんの瞳をまっすぐに見つめた。
野々村 姫
野々村 姫
王牙くんのことが好きになって
しまいました。この先の時間も
一緒に過ごしたい……です
思いきって告白すると、沈黙が訪れた。

返事を待つ間、
ひどく長い時間があったように感じる。

やがて、王牙くんは返事の代わりに席を立った。
野々村 姫
野々村 姫
王牙くん?
名前を呼んだけれど、
王牙くんは私に背中を向けてしまう。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
……っ、俺は彼女とは1週間しか
付き合わない。例外はねえから
そう言って、教室から去っていく
王牙くんを呆然と見送る。

その姿が完全に見えなくなると、
目からポロポロと大粒の涙がこぼれた。
野々村 姫
野々村 姫
こんなに、あっさり……。
終わっちゃうもの、なんだなあ
私はその場に崩れ落ちるようにして座り込むと、
両手で顔を覆った。

意地悪で強引で、
いつも自分の意見を押し通す王牙くん。

そんな俺様魔王なのに、いつの間にか。

振り回されるのも悪くないなんて、
思ってる自分がいた。

でも、王牙くんは私と過ごした日々に
少しも思い入れはなかったんだ。
野々村 姫
野々村 姫
私だけが、きみを好きだった……
きっと、王牙くんにとって私は、
友達でも恋愛対象でもない。

ただの暇つぶし相手だったんだろう。

そんな悲しい現実に涙が絶え間なくあふれて、
声を押し殺しながら泣いていると、
ふいに声が聞こえる。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
野々村さん?
野々村 姫
野々村 姫
……え?
涙を拭うのも忘れて顔を上げると、
そこには優斗くんがいた。

まだ、帰ってなかったんだ。

ぼんやりとそんなことを考えていると、
優斗くんは血相を変えて私の目の前にしゃがみ込む。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
なにがあったの?
こんなに号泣してるところを見られて、
いまさらごまかせないよね。

私は観念して、すべてを打ち明ける。
すると、優斗くんは私をそっと抱き寄せた。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
君の気持ちを弄んで……
俺はあいつが許せないよ
野々村 姫
野々村 姫
それは違うよ。
私が勝手に、好きになっただけだから
藤堂 優斗
藤堂 優斗
野々村さん……。
じゃあ、あいつとのことは早く忘れて、
もっと幸せな恋をするんだ。いいね?
野々村 姫
野々村 姫
うん、ありがとう
そうは言われても、
簡単に忘れることなんてできない。

それがわかっていながら、
私は優斗くんの優しさを無下にしないように
嘘をついた。