第6話

6話 近づく距離
王牙くんとデートをした次の日、
私は学校の屋上で王牙くんに頼まれていた
お弁当を差し出していた。
野々村 姫
野々村 姫
口に合うかは、わからないからね
急に夜に『弁当を作ってこい』なんて、
メッセージを送ってきたりして……。

料理は下準備が必要なのに、
オシャレなレシピを漁る暇も、
材料を買いに行く暇もなかった。


マズイって、言われたらどうしよう。
野々村 姫
野々村 姫
家族以外の人に食べさせたことないし、
男の子の好きなものとかもわからないし

食べる前からつらつら言い訳を述べてしまう
私に、王牙くんはいつもの調子でニヤッと笑う。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
……へえ。じゃあ、俺が初体験
もらっちゃったってこと?
野々村 姫
野々村 姫
誤解されるような言い方しないで!
頬を膨らませながら怒ると、
王牙くんがわしゃわしゃと私の頭を撫でてくる。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
俺が初彼氏で光栄に思え
乱された髪を手ぐしで整えつつ、
私はお弁当の唐揚げをおいしそうに
頬張る王牙くんに呆れる。
野々村 姫
野々村 姫
王牙くんって、
なんでそんなに上から目線なの……
佐伯 王牙
佐伯 王牙
ん? 王様だから
小首を傾げながら、
本気とも冗談ともとれる返事をした王牙くんは、
ケチャップのついた自分の唇を親指で拭った。

その仕草に胸の奥がきゅっと締めつけられて、
私はドギマギしながら答える。
野々村 姫
野々村 姫
魔王の間違いでしょ
佐伯 王牙
佐伯 王牙
ふうん。俺のこと、
そんな邪悪な存在だと思ってたわけ?
箸を置いてプチトマトを手に取った王牙くんは、
私に覆いかぶさるように地面に手をついた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
悪い魔法にかけられたくなかったら、
これ、俺の口から食べて
野々村 姫
野々村 姫
──口!? わ、悪い魔法って……
声を裏返らせながら尋ねると、
王牙くんは口端で意地悪く笑う。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
俺に恋しちゃう魔法
そう言って咥えたトマトを王牙くんは、
まるでキスするみたいに私の唇に押しつけてくる。


そんなに押したら、ぷちって潰れちゃうよ!


汁が飛び散ることを危惧した私は、
恥ずかしさに顔から火が出そうになったけれど、

王牙くんの唇に触れないように、
トマトをパクッと食べる。

佐伯 王牙
佐伯 王牙
上手。キスの褒美はいる?
もぐもぐとトマトを食べていると、
王牙くんが私の顔を両手で包んで上向かせる。

そのままキスするように近づいてきた
王牙くんに驚いて、
私はゴクッとトマトを飲み込んでしまった。
野々村 姫
野々村 姫
けほっ、
トマトが変なところに入った……
佐伯 王牙
佐伯 王牙
ぷっ、動揺しすぎ
野々村 姫
野々村 姫
もうっ、王牙くんが節操ないこと
言いだすから!
佐伯 王牙
佐伯 王牙
ははっ、姫は反応が素直だよな。
顔が真っ赤
野々村 姫
野々村 姫
王牙くん、バカにしてるでしょ
佐伯 王牙
佐伯 王牙
してねえよ。
ほら、女ってすぐにウブなふりすんだろ
野々村 姫
野々村 姫
それは、人によると思うよ? 
佐伯 王牙
佐伯 王牙
そうだな。姫は本気で経験ねえんだな
ってわかるから、好印象
野々村 姫
野々村 姫
さらっと、私のことディスってません?
佐伯 王牙
佐伯 王牙
褒め言葉だよ、褒め言葉
野々村 姫
野々村 姫
……王牙くんってさ
佐伯 王牙
佐伯 王牙
ん?
野々村 姫
野々村 姫
いつも「女ってこうだよな」って、
決めつけるよね
佐伯 王牙
佐伯 王牙
不愉快?
野々村 姫
野々村 姫
ううん、ただ……。女ったらしなのに、
本当は女の子が嫌いって言ってるように聞こえるから、不思議なの
佐伯 王牙
佐伯 王牙
女ったらしって……。
お前こそ、俺をディスってね?
野々村 姫
野々村 姫
えっ、そんなつもりは
なかったんだけど……
佐伯 王牙
佐伯 王牙
まあいい。
意外と鋭いんだな、姫は
野々村 姫
野々村 姫
じゃあ、やっぱり女の子が
嫌いってこと? だったらどうして、
女の子と遊んでるの?

質問ばかりする私に一瞬目を見開いた王牙くんは、
すぐに形のいい唇に弧を描いた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
……なに、俺のこと知りたくなった?