王牙くんとデートをした次の日、
私は学校の屋上で王牙くんに頼まれていた
お弁当を差し出していた。
急に夜に『弁当を作ってこい』なんて、
メッセージを送ってきたりして……。
料理は下準備が必要なのに、
オシャレなレシピを漁る暇も、
材料を買いに行く暇もなかった。
マズイって、言われたらどうしよう。
食べる前からつらつら言い訳を述べてしまう
私に、王牙くんはいつもの調子でニヤッと笑う。
頬を膨らませながら怒ると、
王牙くんがわしゃわしゃと私の頭を撫でてくる。
乱された髪を手ぐしで整えつつ、
私はお弁当の唐揚げをおいしそうに
頬張る王牙くんに呆れる。
小首を傾げながら、
本気とも冗談ともとれる返事をした王牙くんは、
ケチャップのついた自分の唇を親指で拭った。
その仕草に胸の奥がきゅっと締めつけられて、
私はドギマギしながら答える。
箸を置いてプチトマトを手に取った王牙くんは、
私に覆いかぶさるように地面に手をついた。
声を裏返らせながら尋ねると、
王牙くんは口端で意地悪く笑う。
そう言って咥えたトマトを王牙くんは、
まるでキスするみたいに私の唇に押しつけてくる。
そんなに押したら、ぷちって潰れちゃうよ!
汁が飛び散ることを危惧した私は、
恥ずかしさに顔から火が出そうになったけれど、
王牙くんの唇に触れないように、
トマトをパクッと食べる。
もぐもぐとトマトを食べていると、
王牙くんが私の顔を両手で包んで上向かせる。
そのままキスするように近づいてきた
王牙くんに驚いて、
私はゴクッとトマトを飲み込んでしまった。
質問ばかりする私に一瞬目を見開いた王牙くんは、
すぐに形のいい唇に弧を描いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。